芥川龍之介について

『三つの宝』のあらすじと感想文を書いてみる。

投稿日:2019年12月3日 更新日:

芥川龍之介に『三つの宝』という小説があります。『魔術』もそうでしたが、芥川龍之介の童話的作品のひとつですね。童話らしく、王子様とお姫様が出てきたりしますし、戯曲形式で台本のように書かれております。

大人が読んでもなかなか考えさせられる一作となっているので、ぜひ読んでみてください。全三部に分かれた短い小説ですが、まずは簡単にあらすじをご紹介いたします。

芥川龍之介『三つの宝』のあらすじ

昔々ある森の中で、三人の盗賊がタイトルの通り三つの宝を巡って争っていました。そこへ通りがかったのは王子様。何をしているのだと問うと、どの盗人も俺の宝をこいつらが盗んだのだと言いはるばかり。しかし、宝と言いますが、それはどれもこれもボロボロで、マントも靴も穴が空いているのでした。

そんなもん別にいらんだろと王子が問うと、いやいやこれはすごい宝だと。一つは、一飛びに千里飛ぶ長靴。二つ目は、着れば姿の隠れるマント。最後の一つは、鉄でも真っ二つに切れる剣です。そして、マントをよこせ、長靴をよこせ、剣をよこせと争っているのです。

じゃあ一個ずつ分けろというと、長靴を持ったやつが他の宝を持って逃げてしまう、いやマントを着たやつが姿を隠して宝を盗む、いやいや剣を持ったやつがぶった切って宝を奪うとこう盗賊たちは言うわけです。

では、私のものと交換しよう。と王子さまは言いました。そう、王子さまは代わりに私の立派なマント、宝石のついた靴、黄金細工の剣をやろうというのです。

それはいい案だと盗賊たちも賛成しましたから、そっくり交換しました。それから、王子さまは黄金の角笛という宿屋に向かいました。盗賊たちはやったぞ、あんな馬鹿な王子は居ない、上手いこといったと大笑いしながらどこかへ行ってしまいました。

さて、宿屋に来た王子は、噂話を耳にします。それは、王女の結婚話。どうやらアフリカの国の王が三つの宝物を貢いで王女をめとろうとしているのです。その宝こそが、一飛びに千里飛ぶ長靴、着れば姿の隠れるマント、鉄でも真っ二つに切れる剣なのでした。王女の方はその王と結婚したくないそうで、誰かがその王女を救ってくれたらいいのにな……と話をしているのでした。

そこへ現れたのは王子様。そんな宝なら私が今さっき受け取ったのだと村人に言います。ところはそれはただのボロ。じゃあどこでもいいから、ひとっ飛びしてみてよと言われて飛んでみると、どてっとしりもちをつくだけ。村人たちに馬鹿にされ、もう王女を助けに行くなんて止めておけと止められます。しかし、王子は私が王女を助けるのだ!と宿屋を飛び出していってしまうのです。

王女の元へやってきた王子。そう、姿を消せる穴だらけのマントで身を隠して城の中、王女の元へやってきた……のではなく、あまりのボロだったので、城の者に召使か何かと思われただけで、王女の前に現れるとあっという間にばれてしまいました。ああ、ではこの靴も剣も偽物……。

その剣で何をする気だったか王女が問うと、あなたを助けに来たのだと王子は言います。それにまあ嬉しいと王女が喜んだところ、突然、アフリカの王が現れました。そう、彼は本物の一飛びに千里飛ぶ長靴でやってきたのです。

しかし、王子は負けません。私の靴は確かに飛べないけれど、王女と一緒ならば、千里も二千里も二人で歩けるだろうと。マントだって、彼女の元に来るには最適のマントなのだと。

負けじとアフリカの王は本物の身を消せるマントで姿を隠します。王女は、あらいなくなったわ、幸せね!と嫌味を言います。

ならば何でも切れる剣だとアフリカの王は剣を抜いて王子の方に向けると、王女がすっくと立ち塞がります。何でも切れる剣ならば、私のことは切れるかしら?とこう言うのです。

ぐぬぬと困っている王に、王子は正々堂々と勝負を挑みます。そうして、王子の剣はあっという間に切られます。危うし、というところでしたが、アフリカの王は剣を投げ捨てます。どうせお前を切ったところで王女が悲しむだけだろうと。

宝があれば何でも手に入ると思っていた。ところがそうではない、とアフリカの王は言います。それは自分もそうだったと王子は言います。宝があれば王女を救えると。しかし、どちらも誤りであった。

王女も含めて三人は仲直りして、見物客の方へ向って言います。(戯曲なので)宝などには目が覚めた。宝はお伽噺にあるだけのもの。目が覚めた以上、お伽噺の世界から抜け出て、広く美しく醜き世界へ向かいましょう!そこにある世界が苦しみか楽しみかわからないとしても、ただ進んでいくのだと。

芥川龍之介『三つの宝』の感想

童話的……というか、舞台的な一作ですね。文化祭みたい。とても良くできたお話で、少年少女にも非常にわかりやすいお話ですが、最後の仲直りした後の聴衆へ向けてのお話が芥川龍之介らしいですね。

もっと広い世界! もっと醜い、もっと美しい、――もっと大きい御伽噺の世界! その世界に我々を待っているものは、苦しみかまたは楽しみか、我々は何も知りません。ただ我々はその世界へ、勇ましい一隊の兵卒のように、進んで行く事を知っているだけです。

お伽噺を抜け出た先も、もっと大きいお伽噺の世界であり、そこには苦しみかはたまた悲しみが待っているかはわからない。ただ進みゆくことだけを知っている、のですね。童話的な世界からの脱皮を少年少女へ向けてエールを送ったのでしょうか。

ところが、本作は1922年の『良婦之友』という主婦向けの雑誌に掲載されたのが初出だそうですが、当時の主婦向け雑誌はお子さんも読んでいたのでしょうかね。いや、うーん、やっぱり主婦に向けて書かれたものかもしれない。

そう思うと、このような美しい話ばかりではない、世の中に戻す装置として、何より読者をお伽噺の世界から目を覚ますために書いたのかもしれませんね。

以上、芥川龍之介の『三つの宝』でした。ぜひご一読あれ。







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  1. […] 『白』とか『魔術』とか『三つの宝』みたいな、児童向けの一作ですね。ちなみに『赤い鳥』では、『蜘蛛の糸』『魔術』『杜子春』などを発表しており、本作『アグニの神』が芥川最後の『赤い鳥』での発表作だそうです。 […]

  2. […] 戯曲のように書いた作品は、他にも『三つの宝』とかがありますね。この辺の作風に過去のデータベースを紐解き、新しい作品を生み出そうとする芥川らしさが垣間見られます。 […]

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