芥川龍之介について

『あばばばば』あらすじ、感想などなど。

投稿日:2018年8月12日 更新日:

芥川龍之介の作品に、『あばばばば』というとんでもないタイトルの小説があります。本作、芥川龍之介の中期から後期における、堀川保吉という男を主人公とした、「保吉もの」と呼ばれる作品の一つです。

あわわわわ、的な響きがあるので、何かカオスかパニくってるか、夢野万作みたいな狂った小説のようにも思えますが、案外正気な小説で、『あばばばば』というのは、実は赤ちゃんをあやすときの声なのですね。

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芥川龍之介『あばばばば』のあらすじ

主人公は、堀川保吉。『蜜柑』と同様に海軍学校で講師をしていたときの話です。学校の投稿の途中か、その道すがらにある雑貨屋を舞台にしています。そこにマッチを買いに行きました。そこには不愛想な眇めの主人がおり、気の利く丁稚の小僧がおります。

マッチをくれというと、主人は煙草についてる一個のマッチ箱をくれました。もらうのは忍びないので、ついでに朝日という煙草を買おうと言いますが、元々ついてるもので、無駄なものは買わんでいいと主人は言います。しかも、不愛想に。

すると、小僧が大型のマッチ箱を見つけてひょいと出す。それを保吉は一銭で買うのでした。なかなか立派な帆船が描かれた素敵なマッチ箱でした。

保吉は半年ばかりその店に通いました。あんまり常連になったもので、どこに何があるかもすっかり覚えてしまうほどでした。何も変わらぬ日々でした。

ところがある日、変化が訪れました。十九くらいの歳の女の子が店にいるのでした。猫みたいな顔した女の子でした。おやと思いつつ、いつものように朝日を二つくれというと、その子は三笠を取り出したのでした。違うよ、というと彼女は赤い顔をして探します。そこへ奥から主人が出てきて、パッと朝日を出しました。その時、主人の眼には、ほんの少し微笑みのようなものが浮かんでいるのでした。そうした二人を見ていると、保吉には何かほほえましいものを感じるのでした。

それからは、いつ来ても店には彼女がいるのでした。ちょっとずつ見かけはおかみさんらしくはなってきているのですが、応対はつっかえるし、商品は覚えられないし、間違うと時に赤い顔もする。それがよけいに、何だか可愛らしい。可愛らしいと言っても、恋するわけではないですが、何だか親しみを覚える。

ある残暑の時には、ココアを買いに行った折、他のココアはないのかい?とか、これは虫が湧いてたんだがね、とか、嫁も息子もいないのに、嫁がこれじゃいかんと言うとか、息子に飲ませるわけにはいかんとか、何て言って、わざと彼女を困らせたりしました。それが何だか楽しくなったのか、何度かそんなことをして遊んだりしていたのでした。

ある時には、電話を店先で借りた際、あんまり電話がなかなか掛からないもので、のんびり本なんぞを読んで待っておったのですが、店の戸口で主人とその彼女が話をしているのが聞こえてきました。「あなた、ゼンマイ珈琲なんてあるのね」「それ玄米珈琲の聞き違いだろう」「ああ、玄米! ゼンマイなんて、八百屋にしかないからおかしいと思ったわ」なんて、すっかり油断した会話を繰り広げているのでした。その時、急に保吉が話しかけると、彼女は大慌て。その顔は真っ赤になったのでした。

そんなこんなで年をまたぎ、正月を越えた頃、彼女は店先からすっかり姿を消していることに気づきました。何度か行っても、彼女はいない。いつも主人が座っているきりでした。保吉の方も、常連とは言えど話しかけることはなかったので、おかみさん、どうしたの? なんて聞くわけにもいかず、やがて保吉も彼女を忘れていったのでした。

それから、二月の末、店の前を通りかかると、彼女はいたのでした。赤子と一緒に。「あばばばば!」と言って、彼女は赤子をあやしているのでした。保吉は、そんな彼女と目が合いました。保吉は、そこで彼女が顔を赤らめる、と思いました。

ところが彼女は平然としていました。その後も平然と「あばばばば」と赤子をあやし続けるのです。彼女は、もうあの時の彼女はなくなっていました。そこには、ただ「母」となった女がいたのでした。

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芥川龍之介『あばばばば』の感想

最後、芥川龍之介は母となった彼女を見て、

女はもう「あの女」ではない。度胸の好い母の一人である。一たび子の為になつたが最後、古来如何なる悪事をも犯した、恐ろしい「母」の一人である。

と書いています。恐ろしい、とまで書いているのが、なかなか面白いところですね。本作『あばばばば』は大正十二年に発表された作品ですが、芥川龍之介自身は、大正九年で父となりました。ですので、母となって変わった女性を目の当たりにしたころなのでしょうか。奥さんコワかったのでしょうかね。

それはともかく、こうした、ちょっとした人の変化をそっとすくい上げ、そこに焦点を当てる、目の付け所というと安っぽいですが、その辺りが芥川龍之介は素晴らしいですね。価値観が転換する隙間を見つける視点が芥川龍之介の武器なのかもしれません。ぜひご一読くださいませ。







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