芥川龍之介について

『アグニの神』のあらすじ、解説、感想、考察とかとか。

投稿日:2019年12月17日 更新日:

『アグニの神』は1921年(大正10年)に芥川龍之介が『赤い鳥』誌上にて発表した作品です。アグニの神なる神様を遣う占い師を巡る上海が舞台の物語です。ちなみにアグニの神というのは本当にというか、おりまして、アグニとはサンスクリット語で火のことであり、インド神話の火の神様の名前が”アグニ”なんですね。ヒンドゥー教の神様です。

』とか『魔術』とか『三つの宝』みたいな、児童向けの一作ですね。ちなみに『赤い鳥』では、『蜘蛛の糸』『魔術』『杜子春』などを発表しており、本作『アグニの神』が芥川最後の『赤い鳥』での発表作だそうです。

『アグニの神』のあらすじ

『アグニの神』は、全六章で描かれた作品です。

アグニの神を遣わすインド人の占い師

これは中国上海のある町でのお話。とある家の二階にインド人のおばあさんと、商人らしきアメリカ人が話をしていました。インド人のおばあさんの職業は占い師で、商人は三百ドルの小切手を渡して言います。「日米戦争はいつ終わるのか。それさえ分かれば、大儲けができるのだから」と。しかも、当たった折には、もう別で御礼をするというのです。

おばあさんはその依頼を受けます。曰く、彼女の占いはアグニの神が自らお話されるものだから、外れるはずはないと。

占い師に捕らえられた一人の少女

アメリカ人が帰ると、おばあさんはエレンという少女を呼びました。なかなか美しい女の子で、どうもその女の子にアグニの神を降臨させて占いをするようなのです。エレンなる少女は、おばあさんにひどい扱いを受けていて、今度世話を焼かせるとお前の命はないぞと脅すのです。その時、二階の窓の外をエレンは見つめており、話を聞いているのかと箒を振り上げたところ、扉をたたく音が聞こえました。

助けにやってきた日本人の青年、遠藤

二階の窓を見ていたのは、遠藤という名の日本人でした。通りかかった人力車夫にあそこは何の家だ、誰が住んでいると問い詰めると、占い師のおばあさんが住んでいると。しかもそのおばあさんは変な魔法を使うとか。それで、遠藤は家に入って二階の二人がいる部屋まで飛び込んだのです。

ところが部屋の中にいたのはおばあさんだけ。女の子はどこかへ隠されたのか姿も形もありません。用件を問われた遠藤は、占い師ならば、私の望みは分かるだろう。私の主人である香港の日本領事のお嬢さんが行方不明になっているのだ、それを見てほしい。彼女の名は妙子さんだ。さあ、どこにいる……。

妙子さんは香港の警察によるとインド人にさらわれたとのこと。窓から見えたのは確かに妙子お嬢さんだと遠藤は懐のピストルに手を掛け、おばあさんに詰め寄り、閉ざされた戸口を指さしました。そこにいる女の子を出せと。

遠藤は魔法の力であっさり退散させられてしまう

ところがおばあさんは、カラスのような鳴き声を発したかと思うと、遠藤の手に稲妻が走り、ピストルを落としてしまいます。徒手空拳になった遠藤は果敢にもとびかかりますが、おばあさんが箒でごみをはいたかと思うとそれらは火花となって遠藤に襲い掛かり、たまらず遠藤は退散してしまいます。

お嬢さんからの計略の手紙

何とかお嬢さんを助け出そうと、家の外で悔し気に考えていた遠藤の元に一枚の手紙が二階からひらひらと落ちてきます。

それはお嬢さんからの手紙で、おばあさんは私を触媒としてアグニの神を降ろすこと。その神がお告げをして占いとしていること。助かるすべは、おばあさんの術にかかったふりをして、アグニの神の声色で、私をお父様の元へと返すのだと告げること……。

おばあさんがアグニの神を降ろすのは12時のこと。あと5分ほどなのでした。そうして遠藤が二階を見上げると、部屋の明かりは消され、また不思議なお香の匂いが漂ってきました。

始まる儀式

儀式が始まると、途端に妙子さんに眠気が襲ってきました。しかし、ここで眠っては作戦失敗です。神に祈り、どうにか眠気をこらえるのですが、あっさり妙子さんは眠りに落ちてしまいます。

遠藤は扉の向こうの鍵穴からその様子を見ていました。おばあさんは妙子さんに問います。アグニの神よ、私の願いをお聞き入れくださいと。すると、妙子さんは荒々しい男の声で言いました。

「もうお前の言うことは聞かない。俺の言いつけに背いて悪事ばかり働きよって。しかもこの女の子もさらってきた。さあ今すぐこの子を父親の元に戻すのだ」

おばあさんは、下手な真似をするな、騙されるほど愚かじゃないと女の子に詰め寄り、ナイフを振り上げます。しかし、女の子は眉一つ動かしません。

遠藤は必死で扉をに体をぶつけますが、扉はなかなか開きません。部屋の中からは叫び声が聞こえてきました。全身に力を込めて狂ったように妙子さんの名前を叫びながら思い切りぶつかるとようやく扉が破れました。

部屋の中にいたのは

そこにいたのは眠っていた妙子さん。そして、胸にナイフを突き立てられたおばあさんが床に倒れていたのでした。おばあさんは遠藤さんが殺してしまったの?と妙子さんが問うと、遠藤は運命の力の不思議さを思い知りつつ、「おばあさんを殺したのは、アグニの神です」と答えました。

『アグニの神』の解説、感想、考察

なかなかドストレートな、まるで探偵小説?のような躍動感と無駄のない見事なお話となっています。江戸川乱歩が書いたと言われてもちょっとわからないかもしれませんね。

勧善懲悪、因果応報の物語

神様を使って悪いことばかりに役立ててきたおばあさんが、きっちり罰を受ける因果応報の物語になっているあたりが、児童雑誌『赤い鳥』に連載してたんだな!という感じですね。

この辺りは友を裏切って真っ黒になってしまった犬の物語『白』とか、連なって上る餓鬼どもに降りろ!と叫んだ途端に糸が切れる『蜘蛛の糸』とかと近しいように思います。

人知及ばぬ神の物語

妙子さんが願っていた通り、神が降りたふりをして、声色を変えて騙そうとしたならば、きっと計画はダメになっていたのでしょうね。作戦が失敗したけれど、結果オーライ、なところはちょっと『煙草と悪魔』にもちょっと通ずるものがあるかもしれません。

なお、『煙草と悪魔』は1916年の作品ですから、それから5年後に本作は書かれてるんですね。そう思うと、確かに『煙草と悪魔』より物語としてはシンプルに洗練されているような気もします。あちらはあちらでこう考えさせるポイントが多く散らばってるのですが。

ちょっと面白いのは、神を降ろされる時、眠ってしまわぬように妙子さんは「日本の神様に助けて、あのおばあさんを騙したいの!」と祈りまくるのですが、その願いかなわずにアグニの神がやってきておばあさんに怒りの鉄槌を浴びせるのですね。

人間の計略は脆くも破たんし、神様に助けられた辺りが本作の面白いところですね。

エレンは何でエレン?

最後に小ネタですが、妙子さんは、恵蓮(エレン)という名を与えられていますが、アグニの神様は創造主ブラフマーの蓮華から生まれたという説があり、その巫女さんというところで蓮の名が与えられたのではないかとされています。

『アグニの神』は、『Amazon Kindle Unlimited』で読むことができますのでぜひご一読くださいませ。







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