宮本輝

『青が散る』のあらすじ、感想、あとドラマも少し。

投稿日:2016年2月7日 更新日:

青が散る

『青が散る』は、テニスをテーマにしたスポーツ小説です。「文藝春秋」の季刊誌「別冊文藝春秋」の1978年夏号(145号)から1982年夏号(161号)に連載されまして、1982年に文藝春秋社から単行本刊行、1985年に文庫化され、もう30年以上前の作品となりますが今なおみずみずしい作品です。

作者の宮本輝さん自身、追手門学院大学で四年間ラケットを振り続けており、氏が見た感じたであろう大学生活のはかなく切ない四年間がつづられています。

青が散るのあらすじ

主人公は椎名燎平。一年浪人した彼が、特段の理由もなく大阪郊外茨木市に新設された大学に入学し、卒業するまでの四年間の物語です。もちろん、氏が卒業した追手門学院大学がモチーフとなっています。入学時にはまだ建物の多数が工事中であり、無論テニスコートもなく、新設のテニス部はテニスコートをつくるところから始まるのです。

燎平は、佐野夏子という美しい同級生に一目ぼれをしてます。しかし、その恋はなかなか進むことはありませんでした。彼女にはいつもたくさんのボーイフレンドがまわりにおり、また父の死や長年世話になったフランス人、ペールとの別れ……。そこには、様々な事情がありました。

それはどの人物も同じです。高校時代天才と呼ばれた安斎克己が、なぜかその新設校に入学していたのですが、彼は祖父と二人の兄が精神病で自殺し、やがて自分もそれで死ぬのではないかという観念にとらわれ、テニスができなくなってしまっていたのです。また、おとなしいテニス部の祐子は突然結婚し、アメリカへ行ってしまいますし、同じくテニス部のゆかりは整形手術をしたり……。歌い手ガリバーは歌手デビューするのですが、どうしようもない女に惚れてしまったり……。誰もが懸命に生きているのですが、どうにもならぬ虚しさややりきれなさを抱えていました。

テニスをしても器用貧乏なスタイルから抜け出せない燎平に、テニス部の仲間である金子や貝谷は二流の上を目指せと言います。それは、したたかでずるがしこいが、一流の下よりもはるかに強いテニスだと言います。それを習得させようとするのですが、燎平はそれをうまく習得することができませんでした。

やがて夏子は田岡というわりとろくでもない男と恋に落ちてしまいます。燎平は彼女の母親に頼まれ、彼女を救い出すのです。本位でもありませんし、あまりに情けないながらも、彼はやり抜くわけです。

そして、四年間の集大成となる大学生活最後の試合、燎平は二流の強いテニスではなく、ついに王道たる一流のテニスをします。そして、見事に負けてしまうのです。それが四年間の彼の答えでした。潔癖であれ、王道であれ――。

青が散るの感想、解説

テニス部の祐子に恋をする貝谷。ともにテニス部を設立する金子との友情。美しき佐野夏子に翻弄される燎平の恋心。天才安斉、などなど魅力的な登場人物が織り成す青春の物語は、どれもこれも淡く、そして切ないものです。

何をするあてもない、しかし何かを追い求める四年間の若者の姿は、もろく、頼りなく、それでいて美しいものです。

「何や黒いような青いような、けったいな目をしてた。あの目にじっと見られてるうちに、頭がかあっとして来たんや」

これは物語冒頭の、金子による夏子の目に対する評なのですが、物語の最後にもう一度夏子の目に関して描写が出てきます。

いま自分と向かい合って、じっと視線を投げかけている夏子の目からは、あの不思議な緑が消えていた。

夢を描き、現実に打ちのめされ、幸せになろうとしてうまくなれず、あまりに残酷に青春は散りゆくのです。そう、まさしく青が散るまでの物語なのですね。誰もが自身の青春と重ね合わせることができ、非常に読みやすい作品です。結構長編ですが、これは素晴らしいものです。

覇道と王道

『青が散る』のテーマのひとつに、王道と覇道が挙げられます。友人の貝谷は、燎平のテニスを二流の下であると評し、一流の真似をするからスランプから脱せないのだと言うのですね。

二流の上は、一流の下よりもはるかに強い。「上手」ということと「強い」ということとは、別の次元の問題だ。下手でも試合になれば恐ろしいテニスをするやつがいる。下手でもいいから、かつためのあらゆる策を講じなければならぬ。卑怯でもいい、奇襲戦法でもいい。いかなる手段を使ってでも勝つことだ。勝つことだけが美しい。

しかし、燎平は王道を貫き、戦い、時に勝ち、時に敗れていきます。燎平が過ごす青春は、きっとすべての人の青春と同じように恐ろしいほど残酷であるが、彼のひたむきな姿は、人間にとって潔癖であるとはどういうことなのかを教えてくれます。

最初に読んだ十代のころは、二流でいいやん、勝てばいいやんと思いましたが、年を取るたびに一流を目指すことの美しさを感じますね。

テレビドラマ化された『青が散る』

さて、本作『青が散る』は、1983年10月21日から1984年1月27日まで、全13回放送でTBSでテレビドラマ化されました。

主人公は椎名燎平を演じたのは石黒賢さん。金子慎一を佐藤浩市さん、佐野夏子を二谷友里恵さんが演じました。確か石黒賢のデビュー作だったはず。

また、作中登場する『人間の駱駝』という歌があるのですが、作詞 宮本輝・秋元康、作曲 長渕剛とものすごい豪華メンバーの楽曲です。

『青が散る』という物語では、絶えずこの歌が四年間の若者の物語の根底に流れているように感じられます。







-宮本輝

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