『或阿呆の一生』という小説の作者は芥川龍之介で、1927年発表、というか発見された作品です。芥川の死後に見つかった作品なのですね。芥川龍之介の遺書的立ち位置の作品とされております。芥川の最後の思いが込められた作品ですので、数多くの論文も書かれております。
『或阿呆の一生』のあらすじ
『或阿呆の一生』の冒頭の書き出しはこのようなものから始まります。
僕はこの原稿を発表する可否は勿論、発表する時や機関も君に一任したいと思つてゐる。
このように、『或阿呆の一生』は、親友である久米正雄へのメッセージから始まるのです。まさしく友に遺した最後のテキスト、すなわち遺書なわけですね。
本作は、芥川自身の様々ないわば心象風景の断片から成ります。その数実に五十一。その副題は、「時代」に始まり、「敗北」で幕を下ろします。
二十歳の芥川から、自殺する直前までの芥川の心情が綴られていきます。
人生は一行のボオドレエルにも若かない。
二十歳の芥川の心情は、この言葉ととともにありました。まさしく芸術、文学至上主義なわけです。あ、ボオドレエルというのは『悪の華』という詩集を書いた詩人ボードレールのことですね。
狂人の母という背景を背にした、この芸術を愛する青年が少しずつ蝕まれていき、死に魅入られていくまでの様が静かに描かれています。
最後は次の一文で締めくくられます。
彼は唯薄暗い中にその日暮らしの生活をしてゐた。言はば刃のこぼれてしまつた、細い剣を杖にしながら。
『或阿呆の一生』の感想と解説、考察のようなもの
芸術至上主義であった芥川が自らの発狂に怯えて自殺するまでの経緯が淡々と硬質な文章でつづられており、狂人の子であるという事実は、徐々に芥川をむしばみ、死へと追いやっていきます。
狂人であった母。育ての親であった伯母。妻である文のこと。狂人の娘、と書かれた秀しげ子という女性、「月の光の中」にいる野々口豊子などなど枚挙に暇がありませんが、数々の女性とのことが書かれております。
芥川ってモテたんだなとつくづく思わされますが、さておきここに書かれているのはすべて芥川の人生の中で起こったものです。姉の夫も実際に鉄道自殺しています。発狂した友達は、宇野浩二のことです。
あと、先生というのは夏目漱石のことですね。三節ほどに登場しており、芥川の人生に大きな影響を与えたことがうかがえます。
とにもかくにも、ゆっくりと傾いていくようなこの苦しみ、辛さは読んだ方の感想に委ねたいところではあります。とにもかくにも、やや不謹慎な気もしますが、何より文章が素晴らしいのです。冷たく研ぎ澄まされた簡潔な文章であり、芥川龍之介という文豪の最終到達点を知ることができます。
『或阿呆の一生』の名言・名文
私が一番好きな一節を抜粋します。第八節の火花です。
八 火花
彼は雨に濡れたまま、アスフアルトの上を踏んで行つた。雨は可也烈しかつた。彼は水沫の満ちた中にゴム引の外套の匂を感じた。
すると目の前の架空線が一本、紫いろの火花を発してゐた。彼は妙に感動した。彼の上着のポケツトは彼等の同人雑誌へ発表する彼の原稿を隠してゐた。彼は雨の中を歩きながら、もう一度後ろの架空線を見上げた。
架空線は不相変鋭い火花を放つてゐた。彼は人生を見渡しても、何も特に欲しいものはなかつた。が、この紫色の火花だけは、――凄まじい空中の火花だけは命と取り換へてもつかまへたかつた。
なお、ピース又吉さんの芥川賞受賞作『火花』というタイトルは、この一節から着想を得ているそうです。確か又吉さんが受賞後最初に書いた芥川への手紙の中で書かれていました。
本作は著作権が切れていますから、青空文庫などでも読めます。
ちなみに、『或るアホウの一生』というトウテムポールさんがマンガアプリのマンガワンで描かれている漫画がありますが、あれは芥川龍之介の小説の漫画家ではなく、将棋をモチーフにした漫画なんですね。
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