宮本輝

宮本輝さんの生と死へのまなざしは冷たく、優しく、そして深い。泥臭い一市井たちが感情豊かに動き出して紡がれる物語は、日常を舞台にしながらも、そのスケールをはるかに越えた何か観念的な別世界を描き出します。私にとって、限りなく神に近い作家。天才。

暗いから、説教臭いから、宗教臭いからと言って好き嫌いするのは、あまりにもったいない。初期の作品は何か神がかり的なものを感じるほど洗練された文章で、次々と傑作を生み出し続けた天才。『錦繍』、『青が散る』、『春の夢』、『避暑地の猫』と立て続けに書いていた時はもうヤバい。私が唯一サイン本を持っている作家。

宮本輝さんの年表のようなもの

昭和22年3月6日、兵庫県神戸市弓木町2丁目6番地に生まれる。本名、宮本正仁。父は熊市、母は雪恵。(父熊市は、『流転の海』シリーズで熊吾として描かれる)父熊市が五十代にして初の子供であったため、孫と間違えられる。

三歳の頃、愛媛県南宇和郡一本松町に隣接する城辺町に転居。この辺りは、『地の星』に書かれている。

左利きである。キリスト教系の幼稚園に入学し、左利きを右利きに矯正されたストレスで首が曲がったまま動かなくなり、幼稚園を退学。退学後すぐに首は直った。

小学校は、梅田のど真ん中にある大阪市立曾根崎小学校。

九歳の頃、富山市立八人町小学校へ。富山は後に『螢川』や『田園発 港行き自転車』の舞台に。

中学生の頃、父熊市の事業が上手くいかなくなったことを機にアルコール依存症となった母親が、病院に運ばれ、生死を彷徨う。その晩押し入れに潜り込み、近所の学生から借りた井上靖の『あすなろ物語』を読み、小説の世界に触れる。

関西大倉中学校、高等学校卒業。卒業後、浪人時代の一年間で二百冊以上ものフランス文学・ロシア文学を読む。この浪人時代の思い出を下敷きに、後に氏は『星々の悲しみ』を書く。

私立追手門大学文学部に入学。新設校であり、氏は一期生。テニス部に入り、テニスに明け暮れる。氏の大学時代は、『青が散る』、『春の夢』のベースとなる。ちなみに、追手門大学には宮本輝ミュージアムがある。

大学卒業後は、サンケイ広告社で広告コピーライターとして従事。宣伝会議の講座にも通っていたらしい。サラリーマン時代は競馬にハマる。

25歳の時、パニック障害(不安神経症)を患う。通勤ができなくなり、サラリーマンを辞める。

たまたま雨宿りに入った本屋で小説を手に取り、そのあまりにつまらなさに自分が読んで感銘を受けてきた小説はこのようなものではなかった、自分の方が面白い小説が書けると思い立ち、小説家を志す。

3年間だけ小説を書かせてくれと妻を説得。処女作は、タイのバンコクのガイドブックをたよりに書かれた、『無限への羽々』。文学界新人賞の最終選考に残るが、受賞は逃す。本作は、後の『愉楽の園』の原型である。

「これで太宰賞、これで芥川賞や」という師となった池上義一氏(宮本輝というペンネームの名付け親でもある)の予告通り、『泥の川』で太宰治賞を受賞、『螢川』で第78回芥川賞を受賞。芥川賞受賞は、ちょうど妻との約束から3年後の受賞である。

パニック障害(不安神経症)と結核と宮本輝

子どもの頃からからだが弱く、二十歳までは生きられないと医者に言われていた。サラリーマン時代にパニック障害となり、作家受賞後は結核にかかり、結核病棟に入るなど。これらの体験から、氏の小説には常に背後に死の気配があり、その死生観が色濃く出ている。

生と死は無縁のものではなく、死への深い眼差しがある。その上で、人間にとって幸福とは何なのかというのを模索し、書き続けている。ちなみに、ものすごいざっくりというと、初期作品は暗く、近年の作品は明るい。宮本輝の死への探求というのは、『ひとたびはポプラに臥す』でたどり着いたものがあるのかもしれない。

大の競馬好きであり、ゴルフ好き。共同馬主になったことも。

熱心な創価学会の信者らしいが、それで氏の作品の価値が上がるわけでも下がるわけでもないので、あまり気にせず読んでほしい。

執筆は、万年筆で行う。やわらかい緑色のインクが好み。が、最近はもっぱらパソコン。

北日本文学賞と芥川賞の選考委員を務めている。紫綬褒章受章者。

宮本輝のおすすめ作品

『泥の河』、『螢川』、『道頓堀川』の川三部作や競走馬を巡るドラマを描いた『優駿』、映画化された際には江角マキコの女優デビュー作にもなった『幻の光』、テニス部の大学生たちの青春の哀歌を綴る『青が散る』、往復書簡のみで全編が構成される『錦繍』などがよく知られるところ。とりあえず長いけれど読みやすいので、『青が散る』をおすすめしたい。

短編小説の名手でもあり、『星々の悲しみ』、『五千回の生死』などに収められる短編は人生の深淵をふと垣間見させてくれる。

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