宮沢賢治

『どんぐりと山猫』のあらすじ、解説、感想などなど。

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『どんぐりと山猫』は宮沢賢治が生前唯一出版した作品集『注文の多い料理店』に収録されている短編小説です。まあ、小説というか童話と言った方が良いかもしれませんね。

『注文の多い料理店』においては、本作『どんぐりと山猫』は冒頭を飾る作品であり、宮沢賢治にとって非常に重要な作品なのですね。では、この物語のあらすじをまずはご紹介いたしましょう。

『どんぐりと山猫』のあらすじ

主人公はかねた一郎くん。ある土曜日の夕方、汚い文字の変なはがきが彼の元に届きます。それによると、面倒な裁判があるから来てくれ、ということでした。そのはがきの差出人は山猫からでした。

山猫を探して、西へ東へ

それで翌朝一郎はウッキウキで谷川に沿った小道を登っていって、やまねこを探すのです。栗の木に聞くと、馬車で東に行ったと言います。それで東に行って、笛吹の滝に聞いてみると、馬車で西に行ったと言います。今度は西に行って、白いキノコに聞いてみると、南に行ったと。南に行って、リスに聞くと、南に行ったと。

……そして南にどんどこ進んでいくと、真っ黒なかやの木の森の方へ、新しい小さな道がありました。その道を行くとやがて坂になり、その坂を汗だくになって上がっていきますと……俄かに周りはオリーブ色のかやの木に囲まれた、金色の草地が広がったのです。

突如黄金の草地に現れた山猫

そこに、背の低い妙な男がおりました。片目で、半纏のようなものを着て、足が曲がって、その足先はヘラみたいになっているのでした。ちょっと気味悪かったのですが、一郎が山猫を知りませんか?と聞いてみると、「山猫様はいますぐに、ここに戻ってお出でやるよ。お前は一郎さんだな」というのです。手紙を出したのはこの男で、山猫の馬車別当、まあ運転手みたいなものだったのです。

その時、どうと風が吹き、山猫さんが現れました。黄色な陣羽織のようなものを着て、緑色の目をまん丸にし、耳は立って尖っておりました。彼が一郎を呼び出したのは他でもない、裁判がちょっと長引いて三日も続いているということで、手伝ってほしい、と言うのです。

延々と続く、どんぐりで誰が一番偉いのか裁判

すると、一郎の足元でぱちぱちはぜるような音がする。何かと思ってみてみると、草の中に小さいどんぐりがいっぱいいて、何やらわあわあ言っているのでした。山猫の指示を受け、別當さんが草地をザザッと刈って平地をつくると、そこに無数のどんぐりが集まりました。こいつらこそがまあ被告であり、山猫は裁判官なのです。

それで、何に揉めているかというと、どのどんぐりが一番偉いかが決まらないと。ある者は頭が尖っている者と言い、一番丸い者と言い、いや、大きいのが偉い、背の高いのが偉い……と延々と三日間言い争っているのです。

「一番偉くない人が一番偉いことにしよう」

山猫は一郎君に何とかならんかね?と知恵を乞うと、彼は言いました。「じゃあ、一番馬鹿でめちゃくちゃでぐっちゃぐちゃの一番偉い、ということにしましょう」と。

そうすると、どんぐりは途端に黙りました。山猫さんは大層お喜びになり、どうぞ名誉判事になってください!今日の御礼に黄金のどんぐり一升をお渡ししましょう!というのです。

それで、山猫さんたちに一郎は馬車でお家まで連れて行ってもらうと、黄金に光るドングリはどんどん光を失い、家に着くころにはただのどんぐりになっていまいした。また気が付くといつの間にやら馬車も山猫も別当さんもどこにもいなくなっているのでした。

それから、一郎の元に山猫さんから再びはがきが来ることはありませんでした。というお話です。

『どんぐりと山猫』の解説、感想

とてもピュアな心で読むと、一番偉い、なんて思っている者が一番偉くないのよ、という人間の知恵、みたいな教訓が得られるでしょう。豊かな自然に囲まれて教師をしていた宮沢賢治自身の子どもたちへの接し方のようなものを感じ取れますね。

ところどころ存在する、不可解な事象

しかし、本作には不思議なことがたくさんあります。

  • そもそもどうして一郎の元にはがきは来たのか?
  • なぜハガキを受け取った一郎はうれしくてたまらなかったのか?
  • 別当の気味の悪い姿をした男は一体全体何者なのか?
  • 山猫は次に出すハガキでは「明朝出頭すべし」、なんて文言に変えても良いか聞いたのか?

などなど、よくよく考えてみると奇怪なことに満ちていますね。宮沢賢治の作品と言うのは、説明がものすごく省かれていて、物語の力と言葉のリズム感、また幼少期にしか抱けないワクワク感と何か自然への不気味な畏怖、のようなものを織り交ぜてぐいぐいと読者を引き込んでいきます。そこが魅力ですね。

なぜ山猫は二度と一郎を呼ばなかったのか?

しかし最大の謎は、 どうして、山猫から二度とハガキが来なかったのか? ではないかと思います。不思議です。名回答を出した一郎君は山猫に重宝されるべきではないのかと。

これもまあいろんな読み方が勿論あって、一郎が大人になり、純粋さを失ったからというのはなかなか美しい回答だなとは思います。

しかし、うがった見方をしがちな私は、やはり本作が収録された短編集の表題作でもある『注文の多い料理店』のことを思い出します。

そう、山猫と言えば、山猫軒。あの悪い猟師たちを取って食おうとした山猫です。森の奥においては一番力を持ち、恐ろしいのは山猫なのではないかと。黄金のどんぐりと塩鮭の頭を一郎に選ばせたとき、山猫は、

山猫は、鮭の頭でなくて、まあよかったというように

『どんぐりと山猫』 宮沢賢治

なんて言っています。もしかしたら、食べられるは山猫軒に発注しないといけなかったのかもしれません。それはとっても手間ですし、もしかすると本当にそれは鮭だったのかどうなのか……なんてことも思います。

山猫と一郎の知恵の戦いの物語

そう思うともしかしたら聡明な一郎君を何とかしたかったから、「明朝出頭すべし」 なんて書き換えて、一郎君を裁いてしまおう、なんてことも思っていたのかもしれません。一升の黄金のどんぐり、メッキを混ぜてもいいから持ってこい!なんて言って、実際本当にどんぐりはメッキだったわけですし。

でも、まあどんぐり事件が一郎君のおかげで解決したから、その感謝の意を込め、彼は二度とハガキを送らなかったのではないかと。自然は美しいし、ワクワクさせるものではあるが、やはり人間にとっては恐ろしいものではないか。そして、それに立ち向かうのは、ただ一つ人間の知恵だけではないのか。一郎君は別当の機嫌を損なわぬよう、持ち前の機転の良さで上手くかわしてますしね……。そんなことをこの物語に込めたのではないかな、なんてことも思います。

いろんな読み方ができると思いますし、彼が生前遺した作品集『注文の多い料理店』に沿って読んでいくと、いろんなことがわかるかもしれません。ぜひご一読くださいませ。







-宮沢賢治

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