芥川龍之介について

『歯車』のあらすじ、感想などなど。

投稿日:2019年11月21日 更新日:

『歯車』の作者は芥川龍之介です。レインコートを着た幽霊、ドッペルゲンガーみたいなものに出会い、その不安な心境が描かれています。初出は1927年。芥川龍之介が自殺したのは1927年7月24日のことで、途中までが生前に発表され、後は遺稿として発見されました。

『文芸的な、余りに文芸的な』という谷崎潤一郎と論争したとされる小説の物語があった方がいいのかどうなのか問題で、芥川龍之介自身は物語の筋なんてなくていい派(その筆頭として志賀直哉を挙げています。実際本作の中でも主人公は『暗夜行路』を読んでいます。)が、その最たる小説が『歯車』ですね。

物語がどんどん展開されていくような小説ではなく、筋書らしい筋書きもなく、ものすごい簡単に言うと、一回避暑地から東京に出て来て、ちょいちょい歯車見えたりドッペルゲンガー見えたりして、しばらくホテルで苦しみながら小説書いて、また避暑地に戻って、あー誰か殺してくんねーかなーっていう小説です。病的な精神状態ですね……。

『歯車』のあらすじ

ということで、あらすじを書くのが非常に困難なんですけども、何とかまとめてみました。「レエン・コオト」、「復讐」、「夜」、「まだ?」、「赤光」、「飛行機」の全6章に渡る小説です。

レエン・コオト

とある結婚式披露宴に向かうべく主人公(おそらくは芥川龍之介自身)が車を走らせ、駅へと向かっていました。その車中で聞いたのは、レインコートを着た幽霊の話。

駅へ着いたところでレインコートを着た男に出会います。そして、今度はホテルに向かう途中、右目の視界に無数の歯車が現れます。ホテルのロビーにつくと、脱ぎ落されたレインコートを発見します。

そして、一本の電話が鳴ります。姉の娘からの電話は、それは姉の旦那、すなわち義理の兄の自殺を知らせるものでした。

復讐

ホテルで目覚めると、スリッパのかたっぽがどこかにいってしまっていました。探しても見つからないので、仕事をすることにしました。

小説を書き続ける主人公の脳裏に、轢死した兄のことが浮かびます。彼は放火の嫌疑を掛けられていました。保険金の掛かった家を燃やしたとして、執行猶予中の身だったのです。また、主人公がおそろしかったのは東京に戻るたびに火を見ることでした

主人公はホテルに詰めて原稿を書く生活をしばらく送りました。そして、時折精神病院に行き、薬をもらうような生活をしていました。病院から戻ると、またレインコートの男がいて、彼は大層不吉なものを感じました。

丸善の二階で書棚の間をさあよい、様々な本を見て回り、やがてカフェに入りますナポレオンのことなんかを考えていると自分にしかわからない苦しみの中に落ちていってしまうような心地がしてくる。

外に出て往来を歩いていると、家族と住む家のことを思いだしていました。十年前から家族のために借りた家で、そこには妻子だけでなく父母とも同居している。それから、彼は奴隷となり、暴君となり、そして主義者になったのだ……と回顧しています。

で、ホテルに戻りまして、短編が30ほど集まった長編の構想を練り始めました。それから友人と会い、分かれた後にベッドで『暗夜行路』を読み始めます。やがてまた歯車が見え始め、頭痛を恐れて睡眠薬を飲んで眠ります。

すると、悪夢を見、慌てて飛び起きて一人夜が明けるのをまちます。まるで長年の病苦に悩み抜いた挙句、静かに死を待っている老人のように。

まだ?

短編を書き上げた彼は、銀座のある本屋へ出かけました。そこで『アナトール・フランスの対話集』と『メリメの書簡集』を買います。それからカフェに入りました。そこにいた親子らしい仲睦まじい男女がいて、息子の方は主人公にそっくりでした。

ホテルに戻って、主人公はまた小説を書き始めます。そこへ電話が鳴り、電話口では、「モオル、モオル」と言っています。その「モオル」は「la mort」すなわちフランス語で死をする意味ではないかと思うと、途端に不安が襲い掛かります。死は義理の兄だけでなく、自分の元に迫っている。

鏡の前に立ち、すさんだ影たる自分を見ると、第二の自分のことを思い出しました。どうやら彼にはドッペルゲンガーがいるようでなのです。それは帝劇の廊下に現れ、銀座のとあるタバコ屋にも現れていました。

赤光

ウイスキーを飲もうと逃げ込もうとしたバーの扉にかかっていたランタンの揺れる赤い光にさえおびえていました。主人公は、闇の中を歩いているかのような心地でした。

精神的に追い詰められていた彼は、精神病院に電話をかけようとしましたが、それは自身の終わりになると考え、その恐怖を紛らわせるためにドストエフスキーの『罪と罰』を読み始めます。ところが、開いたところにあったのは、『カラマーゾフの兄弟』の一節がありました。それは、悪魔に苦しめられるイヴァンを描いた一節でした。その一節は、悪魔に彼自身が苦しめられているように思えました。

眠りだけが彼の癒しでしたが、眠ることはできず、執筆をつづけます。やがて、ついに家に戻ることを決心しました。

飛行機

東海道の駅から避暑地に向かう車に乗っていました。その車の運転手は、古いレインコートを着たことに、何やら不吉さを覚えて目をそらしていました。

家に戻った彼は、しばらく睡眠薬や妻子のおかげで平穏に過ごしていました。

黄色い翼の飛行機が真上の空を飛び、轟音を立てました。義理の弟は、飛行機病について語ります。

「ああ云う飛行機に乗っているひとは高空の空気ばかり吸っているものだから、だんだんこの地面の上の空気に堪えられないようになってしまうのだって。」

誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか? で、終わります。

歯車の感想、考察

『遺書』や『或友人へ送る手記』などを読むと、おそらくは1927年当年は芥川龍之介は自殺することを決意していましたから、彼の病ともいえる死の前にいた心理状態を読むことができます。

義理の兄の死は実話なのですが、その辺りからじわじわ向かってくる不安感が精神の根幹をどんどん揺るがしていく様がすごいですね。自分は狂人の子であり、歯車が見える変な病気に冒されていている。神に救いを求めたいが、神は信じられない。しかし、悪魔のことは信じられる。

狂人の娘(秀しげ子さんとされています)の影があり、家族のことがあり、生活の苦労があり、しかも歯車が見えるし、頭は痛いと。

非常に難解な小説ですね。むずかしい。「罪と罰」、「人工の翼」、「黒と白」……彼の苦悩の理由の断片が至る所に隠れています。ぜひあなたも読んでみて、この芥川龍之介の死の謎に挑んでみてください。

『歯車』が見える病気

ちなみに、視界に歯車が見えるという病は本当にありまして、閃輝暗点という名前の付いた病だそうです。視界にギラギラした光が現れ、そのあと激しい頭痛、いわゆる片頭痛に見舞われます。それが芥川龍之介の病だったんですね。

ドッペルゲンガーにまつわる小説

文豪は追い詰められると最後にドッペルゲンガーが見えるのか、この対象の終わりくらいにドッペルゲンガーが流行ったのか、ドッペルゲンガーの小説はいくつかあります。そちらも読んでみると、いろいろ同じところ、あるいは違うところがあって面白いと思います。ぜひご一読ください。







-芥川龍之介について

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  1. […] 『河童』の作者は芥川龍之介です。芥川の後期の作品で、『歯車』や『或る阿呆の一生』などと並び、晩年の代表作の一つとして名高い作品です。神経衰弱に陥っていた芥川龍之介の心理状態が色濃く反映されており、芥川龍之介の命日、まあ自殺した日ですね、それは7月24日なんですが、その日は「河童忌」と呼ばれています。 […]

  2. […] 芥川龍之介の『或阿呆の一生』や『歯車』に見られる逼迫感はどうにもここには感じられず、あくまで創作物としての域を超えてはいないように感じました。そこまで深刻に本作『人間失格』を扱わなくてもいいんじゃないかなぁと個人的には思います。 […]

  3. […] 幸せになったはずの芥川ですが、歌人の秀しげ子さんと不倫関係にあったそうです。『或阿呆の一生』とか『歯車』とかに「狂人の娘」みたいなフレーズで何か嫌な女のことが描かれているのですが、それは秀しげ子さんだそうです。不倫してたくせに何なのよ、という感じですが、自分の弟子とも関係を持っていたことを知り、もう嫌になっちゃったと。 […]

  4. […] 芥川龍之介の『夢』という小説をご紹介したいと思います。本作は実は発表されておらず、遺稿として遺されたもので、死後に見つかったものなのですね。『或阿呆の一生』とか『歯車』とかと同じ出自なわけです。 […]

  5. […] 芥川龍之介の『或阿呆の一生』や『歯車』に見られる逼迫感はどうにもここには感じられず、あくまで創作物としての域を超えてはいないように感じました。そこまで深刻に本作『人間失格』を扱わなくてもいいんじゃないかなぁと個人的には思います。 […]

  6. […] 文豪というのは突き詰めていくと、最終的にドッペルゲンガーが見えるのでしょうか? ドッペルゲンガーと言えば芥川龍之介の『歯車』ですね。この辺の共通性と違いに着目して読んでみるのもいいかもしれません。 […]

  7. […] 芥川龍之介がこの病にかかっていたという事実はおそらくあまり知られていないでしょうが、おそらく多くの方がギザギザの何かを目にしていたことはご存知でしょう。そう、名作『歯車』で描かれる、彼にしか見えない歯車はこの閃輝暗点であると言われています。 […]

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