純文学

『変身』のあらすじと感想とか。

投稿日:2016年5月24日 更新日:

フランツ・カフカ 変身

『変身』は、オーストリアの作家であるフランツ・カフカが書いた小説です。1912年に書かれ、1915年に出版されました。3つの章で構成されております。

カフカの『変身』、あらすじ

外交販売員グレーゴル・ザムザがある朝巨大な虫に変身していることに気が付くところから始まります。なんと突飛もないところから始まる物語ですが、ザムザは仕事のために(彼は外交販売員で、まあセールスマンですね)早朝五時からの汽車に乗るはずだったのですが、なんと遅刻していることに気が付くのです。いや、もちろん巨大な虫になっていることにも気づいているのですが、これはどうしたことかを考えているのと同じくらい、仕事に遅れてしまったのをどうしようというのを考えているのです。

ところが、こんな姿では扉は開けられない。両親も妹も扉の前にやってきてもう朝だと呼びかけますが、開けるわけにはいかない。そうこうしているうちに、支配人がやってきます。ザムザの上司ですね。なんで仕事に来ない、最近お前はたるんどる、会社の金を持って逃げようとしてるんじゃないか、と、まあ頑張っているザムザに対してひどいことを言うわけです。ザムザもこれは何とかしなければと思い、ついに一気呵成にもう少ししたら体調がよくなるから待っていてくれ、最近の成績の話をするなら、先にあげた見積もりを見てくれ、まあそれはいいからとにかく汽車に乗ってすぐに行きます、というわけです。

ところが、その声が人に聞こえない。巨大な虫となったザムザの声はもう人の声ではなく、まるで獣の声なのです。そうして鍵屋を呼んだ方がいい、これは本当に何かがおかしいとなりまして、ついにザムザはそこまで言うならこの扉を開けてやるとその強靭たる顎であけるわけです。

ところが出れば、もうこれはパニックでして、支配人は慌てて玄関へと舞い戻り、ところがザムザは今こちらの言い分もわからぬまま帰られては困るのでそれを必死に追いかけます。ますます支配人は逃げ、両親は叫び声をあげています。ザムザはドスンと腹這いに倒れますが、虫ですから腹這いの方ががぜん動きやすい。やがて、その巨大な虫は父親だった男にステッキでその虫を突つかれて、再び自室に閉じ込められてしまうのです。

毎日家族と下女がザムザ(であろう虫に)餌をあげます。ザムザは一生懸命仕事をし、自分のお小遣いがほんのわずかになろうとも家族にこれまでたくさんのお金を入れてきましたし、特に妹は大切にしてきました。ザムザは扉越しに自分が入れたお金が残らず貯蓄に回されていることを知り感激しますが、家族の側は、まあいかんせん長男が虫になってしまったので、もしかするとこれはザムザかもしれない、ということで世話はしていますが、どうにも優しくなれません。(そりゃそうですね)

両親に至っては部屋にはもちろん入ってこないし、妹だってできるだけ姿も見たくない。ザムザはなるべく彼女の視界に入らぬよう気をつかい、妹の瞳に感謝の色を見たりもするのです。また、母親も入れないが、息子にはもう一度会いたい、治ってほしいと思っています。

ザムザはどんどん虫になってきておりまして、部屋の中の家具やら何やらが邪魔に思えてくるわけです。這いにくいと。それを察したのか、妹は家具を取り除いていきます。母親はザムザの思い出がなくなると最初反対しましたが、妹の説得にあい、荷物を出していきます。出されていくうちにまあ心持は軽くはなりますが、ちょっと寂しくもなり、全部持っていくことはないだろうと、二人が休憩している間にザムザはそっと取り戻しに行きます。閉じ込められて以来、はじめて部屋から出たわけです。それでまた家じゅうパニックと。お父さんは怒り狂ったのか、本当に狂ったのか、リンゴをバシバシ投げてザムザを痛めつけます。

ザムザはその時に受けた傷で、すっかり弱ってしまいました。そして、家の一室を下宿人に貸すのですが、(何故貸した)その際、下宿人たちに妹がバイオリンを披露することになります。その決してうまくないバイオリンに感動してしまったザムザは(彼の働いたお金で彼女はバイオリンを習っていたのですね)姿を現してしまい、下宿人たちもまた怒り狂って出てしまいます。

ついに妹は宣言します。「こいつをお兄さんと思うからいけないのだ。こいつはお兄さんでもなんでもない。一生が大変なことになる。ほうり出しましょう。」しかし、放り出されるまでもありませんでした。ザムザは虫になり、けがをし、たいへんな体力を使い、ついに静かに死んでしまったのです。

巨大な虫は捨てられ、家族はこれからのことを話し合います。そして、自分たちの立ち位置を互いに改めて知り、思うのです。案外自分たちの未来はこれから明るいかもしれないと。家族たちはうきうきした心地で久しぶりに家を出て、郊外へと電車に乗って旅行に出るのでした。

カフカの『変身』の感想

というわけで、なぜグレーゴル・ザムザが虫になったのかという謎は解き明かされることなく、この小説は幕を閉じます。

どうにも読み進めているうちにダウンタウンのコントを見ているような心地になりますね。不条理ですが、案外ザムザもそれをそれとして受け入れ、そのものとして生き、平凡でありながらきわめて奇妙な状況という落差ある世界が描かれます。

巨大な虫という設定は非常に滑稽で大胆なものですが、妙に悲しく、家族の中でこういう虫のように扱われてしまうことというのもあり得るかもしれないなと妙に胸が来るものがあります。

ザムザに肩入れすると家族がひどいと思えますが、家族に肩入れすると十分やったようにも思えます。きわめて悲劇的でありかつ喜劇的な物語ですね……。

ある日突然、人は巨大な虫に変身してしまうのかもしれません。いや、人でなくとも、仕事を失ったり、風貌が変わったり、人相が変わったり、それこそ重い病気にかかったり……なんてことはあるかもしれません。

人は巨大な虫にならずとも、変身をするかもしれません。そんな時、人と人をつないでいたものは、コミュニケーションなのか、人としての姿なのか、はたまたお金であったのか……。

読後、いろいろな空想、思いが去来するはずです。ぜひこの奇書たる『変身』をご一読あれ。







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  1. […] 本作は絶望感も何もない、喜劇のような文体で綴られています。前述の芥川の『鼻』やフランツ・カフカの『変身』のような、そこに映し出される人間の絶望とか他者の憐れみとか何かそういうものもありません。非常にあっさりしています。 […]

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