日本で最も有名といっても過言ではない文豪、夏目漱石の代表作『こころ』。表記的には、『こゝろ』ですかね。
おそらく日本国民のほとんどが教科書で必ず一度は目にしている作品です。決して明るい作品ではなく、主人公”私”と”先生”との間に生まれる交流から、やがて”先生”から私のもとに遺書が託され、”先生”の過去が明らかにされていきます。
上中下の三部構成で書かれており、
- 上 先生と私
- 中 両親と私
- 下 先生と遺書
と大きく分かれてまして、全体では五十六の章から成ります。中編小説、といったくらいの長さでしょうか。もう大昔の小説ですが、文体は結構読みやすいんじゃないでしょうか。漱石ならではの癖はありますが、今から百年以上前の小説でありながら、現代人には読めない!ということがあんまりないんですね。百年経った今なお夏目漱石という人の感性のみずみずしさを感じられると思います。
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夏目漱石『こころ』のあらすじ
ものすごくものすごくざっくり言いますと、”私”が海水浴で出会った”先生”なる人物のどこか裏さみし気な陰のある趣に心惹かれ、先生先生と慕っているうちに、その過去に触れたくなっていく。先生は、いつか過去を話そう、と言っていたのですが、遺書を”私”に託し、自殺をしてしまいます。その遺書に書かれていたのは、親友Kに対する贖罪の物語……といったところでしょうか。
夏目漱石『こころ』の登場人物
主要なところですと、
私
東京の学生で、夏季休暇中、鎌倉の海水浴で先生を見かけ、強く惹かれるものを感じ、交流を深める。
先生
「私」に過去を告白する長大な遺書を遺して、この世を去る。
K
寺の次男。先生と親友であったが、後に自殺。ちなみに、この本作『こころ』及びKという名は梶井基次郎に影響を与え、『Kの昇天』という小説が後に描かれている。もちろん、というか、このKも自殺する青年である。
静
先生の妻であり、Kが思いを寄せた人物。
……といったところでしょうかね。非常にドロドロした、人間の奥底を見せつけられるような、それでいてどこか美しいような、強い光と濃い影を感じさせる一作ですね。
夏目漱石『こころ』の名言
夏目漱石は、かつて日本の千円札のおじさんで、後世を生きる日本人にとって大切な名言をたくさん残しています。それは本作でももちろんそうでして、その一つは……。
精神的に向上心のないものは馬鹿だ
というKのセリフですね。馬鹿という者を非常に簡潔な言葉で正しく表現しており、とても好きな言葉です。他にもたくさん心に残るセリフが端々に現れます。夏目漱石が文豪の中でも一つ違う扱いをされている理由がこうしたセンスあふれる一言にあるのではないかと思います。
夏目漱石『こころ』のアニメ
日本が誇る文豪が遺した代表作なだけあり、何十年経とうと今なお読み継がれる名作なのですが、実はメディアミックスもされているんですね。アニメの方は、「青い文学シリーズ」という日本テレビのテレビ番組で放映されていました。マッドハウス製作で、キャラクター原案は、『DEATH NOTE』や『バクマン』で知られる漫画家 小畑健さん。声優は先生役に俳優の堺雅人さんをはじめ、Kは声優の小山力也さんなど、なかなかの豪華スタッフでアニメ化されています。
あくまで『こころ』を原案としたアニメなようで、原作にないシーンもあるみたいで、『こころ』ファンにはあまり受け入れられていないようですが、それでも名作が読まれるきっかけになるとそれは素敵なことですね。
夏目漱石『こころ』の漫画
アニメがあれば、漫画もある。『こころ ─まんがで読破─』なんて漫画もあるんですね。イースト・プレスさんという出版社さんから出ています。まあ、でも、やっぱり小説は小説で読んだ方がいいかなと思います。漫画で描けないから、漱石も長い長い小説にして書いたんだろうし。
今は青空文庫でも読めますし、ありとあらゆる図書館に置いてるでしょうし、ありとあらゆる古本屋さんに置いているでしょう。文学ってこういうものなのね、というのが非常にわかりやすい一策かもしれません。ぜひご一読くださいませ。
[…] なお、昇天してしまうKはKという名がつけられていますが、これは梶井基次郎が傾倒していた夏目漱石の『こころ』によるところと考えられています。『こころ』もまた、Kという親友の自殺にまつわる物語なのです。 […]