芥川龍之介について

芥川龍之介『黒衣聖母』のあらすじ、感想など。

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『黒衣聖母』は芥川龍之介の作品で、1920年、大正9年、芥川龍之介が28歳の時の作品です。舞台は現代で過去を語るというちょっと特殊な形式ですが、切支丹物のひとつ……と言っていいかもしれませんね。

『黒衣聖母』のあらすじ

秀才の法学士であり、なかなか教養に富んだ新思想家の田代君が「私」の前に一体のマリア様の像を出しました。それは白磁の一般的なマリア像とは全く違い、黒檀を刻んだ一尺ばかりの立像でした。顔はなかなか美しい牙彫りの像で、見とれるほどでした。

ただ、ちょっと気味の悪い因縁があるのでした。この像、田代君の手に入る前は彼の友人の新潟県にいる稲見さんというなかなかの事業化のお金持ちの家にありました。これは骨董収拾のためではなく、普通に宗教用のものとしてありました。

さて、その気味の悪い因縁というのはこの稲見さんのお母さんが十歳か十一歳かの秋の頃のこと。浦賀に黒船が来た嘉永の末年のことだそうですから、1854年ごろのことですね。お母さんはお栄さんと言い、お栄さんの御両親はその2、3年前に亡くなっており祖母の手で育てられておりました。お栄さんには、茂作さんという弟がおり、祖母が必死で二人を育てていました。

この茂作さんというのが重い麻疹にかかりまして、余命間もなくなってしまいました。それで、ある夜、このおばあさんはお栄さんを起こして、真夜中に土蔵へと連れてきました。そこの奥には白木のお宮があり、その戸を開くとその曰く付きの黒衣聖母がいるのでした。

祖母はその黒衣聖母に願をかけ始めます。孫の茂作とこのお栄を、どうか私が死ぬまでで良いので、守ってやってほしい。お栄はまだ嫁に行く年でもないし、茂作がなくなれば、この稲見の家が途絶えてしまう。私の命をささげても良いが、私も余命もないでしょう。ですから、私が死ぬまでの間で構わない……。

そう言うと、そのマリアが心なしか微笑したかのように見えました。お栄にはそれがぞっとしたけれど、祖母は大層満足げでありました。

即朝、茂作の容態はとても良くなりました。それで祖母は涙を流し喜んでおりました。それから少し休もうと横になりました。

そうして、祖母はそのまま亡くなってしまったのです。すると、茂作さんも時同じくして再び容体が一気に悪化し、とうとう十分経たずして息を引き取りました。そう、黒衣聖母は願いのとおり、祖母が亡くなるまでの間、茂作を守ったのです。

田代君は、「私」に問います。本当の話だと思いますか? と。彼は続けて言います。私は本当だと思う。なぜなら、この台座に刻んである文字を見てごらんなさい。

DESIRE FATA DEUM LECTI SPERARE PRECANDO…(汝の祈祷、神々の定めたもうところを動かすべしと望むなかれ)

芥川龍之介『黒衣聖母』

『黒衣聖母』の解説、感想

なかなか不思議な読後感の短編です。堀辰雄曰く、メリメの『 イールのヴィーナス』に影響を受けているとかどうとか。ともあれ、黒い聖母というのは不気味で呪術的な象徴としていろんなところで時折使われており、歴史を紐解くとエジプトの女神イシス信仰(彼女は色黒)に後にマリア聖母信仰がまじりあって、黒い聖母というのが現れたようですね。

茂作が亡くなったにも関わらず、田代君の友達は稲見君ですから、お母さんのお栄さんは結婚した際に旦那さんに婿養子に入ってもらったのでしょうか? 稲見家は存続してるわけですね。と思うと、まさしく台座にあった通り、神は茂作とおばあさんが亡くなるとしても稲見家は存続させたのでしょうね。まあ恐ろしい。

運命を変えてはいけない、という聖母の怪しき微笑は、秀しげ子さんに呪われるように追い詰められていき、ついに自殺してしまう芥川龍之介自身の宿命をちょっと描いているような気もします。もしもそうだとするならば、なかなか黒いマリア像の微笑が恐ろしいものがありますね。もしかすると、この田代君から「私」はこのマリア像を買ってしまったのでしょうか。

気になるのは、こうした芥川らしい作風から抜け出そうと一生懸命書いた『』の直後、翌月にこのようなキリスト教をベースにした作品を書いていることですね。相当悩んでおったのでしょう。このモチーフの差は結構大きいので、『秋』の方もぜひご一読ください。







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