森鴎外

森鴎外『舞姫』のあらすじ紹介と解説を頑張ってしてみる。

投稿日:2019年11月30日 更新日:

『舞姫』です。踊り子です。森鴎外の小説ですね。古い古い小説で、まるで現代のわれわれが読むと古文のような近代小説です。冒頭を抜き出してみますと、

石炭をば早や積み果てつ。中等室の卓のほとりはいと静にて、熾熱燈の光の晴れがましきも徒なり。今宵は夜毎にこゝに集ひ来る骨牌仲間も「ホテル」に宿りて、舟に残れるは余一人のみなれば。

これは……固い文章……!人によってはパッと見ると、読む気しないレベルかもしれません。いわゆる、文語、で書かれております。1890年、明治23年の小説です。森鴎外は最初に『於母影』というのを書いているのですがこれは詩集で、小説としては処女作品となります。

ちなみに、一方夏目漱石の処女作はおそらくご存知『吾輩は猫である』ですが、こちらは1906年、明治39年の小説です。こちらの書き出しは、

吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。

と、だいぶ現代語に寄っていて、まだ多少読めそうな感じがしますね。『舞姫』執筆と『吾輩は猫である』執筆の間、わずか16年で日本人の言葉ってここまで変わったの、何が起きたのと思えますが、これは明治辺りに二葉亭四迷あたりがやりだした言文一致、つまり話し言葉と書き言葉は、話し言葉に近づけようぜ、という運動があったのですね。

文語だったり、文語じゃなかったりが混在した時代で、ちょうど『舞姫』もその時代の最中にあって、文語で書かれた、ということになります。

森鴎外『舞姫』のあらすじ

さて、本作『舞姫』の主人公は太田豊太郎です。森鴎外自身ドイツに留学していたのですが、そのときの経験をもとにした、ドイツから日本に戻る船の中で書かれた日記というか独白を書き連ねたような体裁になっております。

豊太郎は5年前、留学のためにベルリンの都にやってきました。成り上がってやるぞ!という気持ちと、勉強するぞ!というやる気でベルリンに満ち溢れておりました。彼は早くに父親を亡くし、子供の頃からお母さんにビシバシスパルタに教育されてきました。そして、超エリート官僚候補の一人として留学に行ったのです。

そして、三年ほどがあっという間に経ちました。そうしてくると心持に変化が訪れてきました。父の遺言のため、母の教えのためと一生懸命勉強してきましたが、政治学をするような人間でもない。法律家になりたいわけでもない、と本当の自分がはじめて芽生え始めてきて、文学に心を寄せるようになってきたりします。

しかし、官長はそういう男は要らんのですね。機械のようにビシバシする男がほしい。ところが、自我がようやく芽生えた彼はその時点で自分にはコミュ力も何にもない愚図なダメ野郎であることを異国の地で徐々に知っていきます。

そんなある日、とある寺院の門の前で、太田豊太郎は泣いている一人の少女に出会います。年は16、7。金色の髪の青い瞳の美しい少女を前に、シャイボーイの人見知りダメグズ野郎の豊太郎もつい、「どうして泣いてるの、僕みたいな外国人でも何か助けることはできるかしら」と声をかけてしまうのでした。彼女は父を亡くしたところで、母親に言うことを聞けと殴られて、家には貯金が一切ないととんでもない状況にありました。

まあこんな道端で泣いててはいけない、お家に行きましょうということで彼女の家に行きました。そこはエルンスト・ワイゲルトという名の仕立物師の家で、そのワイゲルトは亡くなってしまっているのですが、ひどく粗末な家で家の鍵も針金ひっかけてるみたいな家でした。しわがれた声の老婆が一人おり、それが母親でありました。

彼女の部屋に入ると、と言ってもそれは部屋というかかまどの横を開けた、梁のところに紙をひっかけた部屋のような空間の空き地みたいなところだったのですが、本が一二冊あって、写真立てがあって、美しい花が生けてあり、そこは立派な女性の部屋なのでした。

彼女の名はエリス。そこで改めて彼女を見るとそれはそれはとんでもなく美しい。貧しい家の少女にはとても思えない。聞けば父親が亡くなってからシャウムベルヒというビクトリア座という舞台の座長に結構好き勝手なことを言われており、薄給で働かされているとか。つまりは、彼女こそが『踊り子』なんですが、嫌だと座長に歯向かうと歯向かうとその薄給さえ返せと言ってくる。あまりに金がないから、お母さんも座長に歯向かうことを悲しんでいるわけですね。

豊太郎は隠し財産として二三マルクを持っておりましたが、それでも足らんだろうと腕にはめてた時計を外して彼女に渡します。これを質に入れてしのげと。豊太郎のやさしさに触れたエリスははらはらと熱い涙をこぼしたのでした。

一日中本ばっかり読んでた豊太郎はこの日から彼女とお付き合いするようになります。ところがまあ、それを良く思わなかった周りの人間が、あいつ遊んでばっかりおりますぜと官長にあっさりチクられまして豊太郎は職を解かれてしまいます。エリートの道がパンと終わってしまったのです。

職を解かれてしまうと、ドイツから日本に戻らなきゃいけなくなりますから何とかせねばと思っているうちに、二つの手紙が彼の元に届きました。一つは、母の自筆。もう一つは親族から届いた母の死を知らせる手紙でした。

この時までのエリスとの付き合いはそれはそれは美しいもので、エリスは学のない子でありましたが、豊太郎がいろんな書物を与えてあげるとめきめき上達し、訛りもどんどん直り、手紙の誤字もなくなっていく、とまあ恋人ではなく師弟のような関係でした。美しい世界。

が、職を解かれてしまって学費もなくなり帰るとなると、金のないあんたにもう用はないわとエリスの母親に言われてしまうでしょう。彼女に会えなくなる、と思うと、急激に猛烈に豊太郎はエリスへの恋心を募らせてしまうのです。とんでもない事態になってしまったのに、豊太郎はエリスへの恋に走ってしまうのです。まあ恋とは何て恐ろしいのでしょう。

恋をしたところで、豊太郎の現状が変わるわけでもありません。言ってる間に時は過ぎます。何にもせずに遊んで帰ってきたという汚名を受けて国に帰るか、それともあてもない無一文でドイツに残るか。

そんな豊太郎を救ったのは、一緒に同行して留学にやってきた相沢謙吉さんでした。相沢さんは東京に戻っていて、秘書官として立派に勤めている男です。彼は豊太郎が免官となったのを官報で読み、急いで某新聞社の編集長に掛け合い、豊太郎を特派員としてドイツの政治社会を報道する仕事にあてさせたのです。

報酬は大したものではないですが、つつましやかには暮らしていけるようになりました。また、エリスは行き場をなくした豊太郎のため、母親を説き伏せて、親子の家で一緒に暮らせるようになったのです。そうして、つかの間の幸せがやってきたのです。

それで暮らせるようにはなりましたが、仕事の方も忙しくなって、学問の方はもうてんでダメ、講義にもほとんどでなくなってしまっていました。しかし、世の情勢にはすっかり詳しくなりました。留学生よりよっぽどその辺は優れていたのです。

明治21年の冬、その冬はとてもとても寒い冬だったんですが、エリスは舞台の後にぶっ倒れてしまいます。いったい何語とかと思ったら、何とつわりだったのです。妊娠してしまったのですね。豊太郎は喜んだ、わけではなくて、この異国の地でこのままどうしようと不安になります。

そこに、相沢謙吉から手紙が届きます。彼が遣える天方大臣が、ドイツに来る。天方さんがお前に会いたいと言っている。早く来い。お前の汚名を晴らすチャンスだ。

それで、「何、もう社会で名を成したいというような望みはない。昔の友に会いに行くだけだ」と豊太郎は一番立派な服を着て出かけていきます。

ホテルカイザーホーフで相沢に出会い、天方大臣に通されます。大臣は、ドイツ語の書類をすぐに訳してくれと豊太郎に仕事を出しました。部屋を出て、相沢と豊太郎はランチをしながら話をします。かつては豊太郎の方が模範生だったのに、相沢は立派な身なりになっていて、自分の方は見る影もなかったのです。一番立派な服を着ていったにも関わらず。

そこで相沢にいろいろ聞かれ、豊太郎はすべてを話しました。相沢は言います。才能ある者が、一人の少女の情に流され、目的泣き仕事をするのは良くない。天方大臣も今はドイツ語が使える者がいればよい、という程度だが、ここでお前の才を示せと。お前と少女の関係は恋ではない。慣習という名の惰性だ、意を決して断てと。

豊太郎はその言葉を受け、エリスとの縁を断とう、と約束しました。それは決断ではありませんでした。友に対して、否定するだけの強さが豊太郎にはなかったのです。

翻訳は一晩で終わりました。それから何度もカイザーホーフへ通うようになり、やがてついに大臣からの信用を得始めたのです。

そして一月後、その時は来ました。天方大臣は、明日ロシアに行くがお前も来るか? と言いました。豊太郎は言います。「その命に従わないはずがありましょうか。」

しかし、それもまた決断したのではなかったのです。偉い人に言われて、つい答えてしまっただけなのです。

戻った豊太郎は、エリスに翻訳代を渡します。ロシアに行くための渡航費は彼女には渡しませんでした。彼女の体調は余りよろしくなく、少し休まなければならないが、休むと踊り子の籍もなくなってしまうと。

それなのに、豊太郎は翌朝、ドイツを発ってロシアに行ってしまいます。旅先から何度もエリスに手紙を送ります。

ドイツに凱旋した豊太郎を待っていたのは、レースに包まれたあの彼女の部屋でした。もう、エリスとの子は生まれるところだったのです。きっとあなたに似て黒い瞳の子が生まれるわ、というのです。

そうして、豊太郎はエリスを捨てることになります。それもまた、大臣に言われて、日本に戻らなくいけなくなったからです。

相沢は助けで、エリス家族は生活には困らなくはなりましたが、エリスはやせこけ、精神的に追い詰めてしまったのです。「豊太郎も私をだますのね!」と言い放ち、その場でぶっ倒れます。目覚めた後には、罵声を吐き、髪をかきむしり、モノを投げ散らかしてそして涙を流すようになってしまいました。彼女は「パラノイア(妄想症)」を患ってしまったのです。

豊太郎は相沢と共に協力し、母親にお金を渡し、またいつか赤子が生まれたときのことも頼むと言って、大臣と共に日本に戻りました。まあ、その船上で書いた日記なわけですね。

相沢のような親友はどこにもいない。いないのだけれど、彼を憎む心は今なお残っている。と豊太郎は綴ります。

『舞姫』の感想

え、これ、ひどすぎない?

高校の教科書かで読んだ記憶がありますが、青少年たちはここから一体何を学べばよいのでしょうか。いったいどんな授業だったのだろうか。

こんなに後悔するなら、なんとかしなさいよと思いますが、自己弁護の嵐、弱さの嵐です。弱いのみならず、人のせいにするっていうのはなかなかのクズですね。

ところが自分の心の弱さをここまでぐいぐいと踏み込んで書かれると、不思議と読めてはしまいます。クズがどこかで変わるのかなと思わせて、いつまでもどこまでもクズのままで、純文学度高いですね。

実話をベースとした『舞姫』

しかも、これは森鴎外自身の実話をベースにしているというとんでもないクズさを発揮しています。また実話では、エリスのモデルとなった女の子は森鴎外を追って日本まで来てるんですね。しかもそれを追い返しているという実話の方は更にクズ。

『舞姫』は、Amazon Kindle Unlimitedで読めます

しかし、クズだとしても、この小説は読める……!美文だからですかね。不思議です。本作『舞姫』は、初月無料、月額980円の電子書籍読み放題サービス Amazon Kindle Unlimitedで読めます。私ももうちょっと読み込んでみます。







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