芥川龍之介について

『魔術』のあらすじ、感想、解釈などなど。

投稿日:2019年11月16日 更新日:

芥川龍之介の『魔術』という小説をご紹介します。初出は1920年(大正9年)1月。雑誌『赤い鳥』にて発表されました。人間のエゴイズムを抉り出す芥川龍之介らしい一作といえる小説となっています。同じく芥川龍之介が著した『杜子春』にちょっと似てますな。

ちなみに、作中にはハッサン・カンという魔術師が出てくるのですが、これは元ネタがありまして、谷崎潤一郎の『ハッサンカンの妖術』という小説から来ております。

芥川龍之介『魔術』のあらすじ

主人公の”私”は、降りしきる雨の中、人力車でとある屋敷へ急いでいました。向かっていたのは、小さな西洋館。そこはインド人のマティラム・ミスラさんの御宅でした。そう、このミスラさんこそが魔術の使い手なのです。

ミスラさんはインドのカルカッタ生まれの愛国者であると同時に、ハッサン・カンという名高い婆羅門の秘法を学んだ若き天才魔術家でもあります。主人公は彼と懇意にしていましたが、ついぞ魔術をまだ見たことがなく、ついに今夜見せるということで雨の中人力車を飛ばしてやってきたのです。

玄関を開けたのは、ミスラさんの世話をしている日本人のばあさんでした。おばあさんに通されて、ミスラくんの部屋にきました。そして、葉巻をぷかぷか吸いながら魔術の話をはじめます。

ミスラが使うのは、ジンという名の精霊を使う魔術。たかが進歩した催眠術に過ぎず、使おうと思えばだれでも使えるよものですよと言い、テーブルの花柄に手をやります。するとそこから花弁が取れるではありませんか。その花びらは確かに花の匂いがする。ミスラがテーブルに花びらを戻すと、確かにまたテーブルの模様になりました。

今度はランプをくるくるコマのように回す。本棚から本を飛びださせて、ひらひらコウモリのように飛ばす。そして、そのうち一冊を主人公の元にやり、「借りてた本を返すよ」なんてちょっとお茶目でオシャレなことまでしてくるのです。

主人公は、最初に言われた、誰でも使おうと思えば使えるという言葉が気になり、教えてもらえないかとお願いします。

誰でも使えます。ただし、欲を捨てなければなりません。欲がある者には、ハッサン・カンの魔術は使えませんよと。

魔術が使えるならば、欲など捨てましょう。するとミスラはおつきのおばあさんを呼び寄せて、この方をおうちに泊めましょう。魔術の特訓だと。そうして、主人公はその晩、彼のおうちに泊まって、魔術の教えを乞うようになりました。

そうして一月ほど。主人公はすっかり魔術を身に付けました。そして、かつて彼がしたように、彼の友人に魔術を見せることになりました。魔術見せてよ、と来たわけです。

主人公は、種も仕掛けもないのだよと、暖炉の赤々と熱された石炭を手で持ち(その時点で皆驚いておりましたが)、それを床にまき散らす。すると、石炭は金貨に変わりました。友人たちはびっくりです。そして、こんな風に金貨が自分でいくらでも作れるならば、とんでもない大金持ちになれるだろうと口々に言い始めます。

「いや、欲が出ると、魔術が使えなくなるんだ。だから、この金貨もまた暖炉に戻すよ」

そう言われると、友人たちはちょっと待てという。もったいない。ちょっとくれと。それはダメだと押し問答が始まります。友人の一人が、そこで言います。ならば、賭けをしようと。君が勝ったら、金貨は戻せばいい。我々が勝ったら、こちらのものだ。君の欲とは関係ない、どうだと。

そういう賭けには乗らないと一度は断ったものの、君は暖炉に戻すふりをして自分のものにしようとする気だろと言われ、どうにも向こうは引く気はない。そうしてカードゲーム(おそらくポーカー)が始まります。

欲のない主人公ですが、なぜだかわからないが、その日は勝てる。どんどんどんどん勝ちが溜まる。出した金貨と同じくらいの金を巻き上げ、ついに向こうの全財産を賭けさせることになりました。そして、その最後の勝負、主人公が引いたカードはキング。それで彼の勝ちが決まりました。その時カードからキングがひょいと抜け出て、王冠を脱ぎ、気味の悪い苦笑を浮かべて、「やっぱりこのお客さんを今夜泊めなくていいよ」と言ったのです。

気が付くとそこはミスラさんの部屋の中。吸った葉巻はさっきのままで、どうやらあれから2,3分夢を見ているだけのようでした。ミスラさんは言います。

「あなたには魔術を使えそうにありませんね」

『魔術』の感想・解説

芥川龍之介の教訓めいたお話ですね。『赤い鳥』で発表されたものですから、児童向けに書かれたものだそうです。しかし、なかなか人は欲を捨てることなどできないものですねえ。なかなかよくできたおもしろいお話です。ぜひご一読ください。







-芥川龍之介について

執筆者:


  1. […] 芥川龍之介に『三つの宝』という小説があります。『魔術』もそうでしたが、芥川龍之介の童話的作品のひとつですね。童話らしく、王子様とお姫様が出てきたりしますし、戯曲形式で台本のように書かれております。 […]

  2. […] 『白』とか『魔術』とか『三つの宝』みたいな、児童向けの一作ですね。ちなみに『赤い鳥』では、『蜘蛛の糸』『魔術』『杜子春』などを発表しており、本作『アグニの神』が芥川最後の『赤い鳥』での発表作だそうです。 […]

関連記事

芥川龍之介

芥川龍之介の本名について。

芥川龍之介、森鴎外、中原中也、谷崎潤一郎、坂口安吾……。なぜ文豪の名前というのはこんなにカッコいいのでしょうか。もちろん、ペンネーム、筆名である人も多くおり、後天的にカッコいい名前になった作家もたくさ …

芥川龍之介

芥川龍之介の死因 小説を読んでいるだけでは知る由もない部分まで解説

1924年7月24日、芥川龍之介は35歳の若さで東京田端の自宅で精神科医でもあった作家 斎藤茂吉から処方された薬を大量摂取し、自殺しました。よって、死因は服毒自殺です。芥川龍之介が亡くなった7月24日 …

芥川龍之介

芥川龍之介の子ども、息子、子孫について

日本最高クラスの大文豪芥川龍之介。35歳で自殺してしまった芥川龍之介ですが、この遺伝子というのは残っていないのか? 果たしてその子孫はいるのかいないのか、いたとしたら今何をしているか? もしかして作家 …

芥川龍之介 杜子春・南京の基督

『南京の基督』のあらすじ、解説、感想などなど。

『南京の基督』という小説は、芥川龍之介の初期作品になります。大正九年六月二十二日の作品だそうで、谷崎純一郎の『秦淮の一夜』に影響を受けた作品、と小説末尾に書かれています。(正しくは、谷崎純一郎の『秦淮 …

葱

『葱』のあらすじ、感想。

芥川龍之介に『葱』という小説があります。文豪にもなると、テーマ『葱』で小説が書けるもんなんですね。うらやましい感性です。1919年に書かれた作品で、なかなか爽やかで、ささやかなりしエールの込められた素 …