純文学

『サーカス』を生んだ天才詩人、中原中也

投稿日:2019年11月10日 更新日:

中原中也中原中也は私の大好きな詩人です。なぜこんなに好きになったのか思い出させないのですが、ろくでなしブルースのマーシーのTシャツに描かれていたのを見つけた兄が詩集を買って来たからだったような気もします。(違うかもしれません)

とにかく、なぜだか私が中学生の頃に中原中也全詩集が家にあり、それを読みまくっていました。「アンダースローされた灰が青ざめて……」とか、読んだところで意味はよくわからないですが、厨二心に刺さったのか、凄まじく心酔して読んでいました。ちょっと大きくなってから彼のことを調べるようになり、彼の詩がダダイズムという一派の流れにあることを知り、「ああ、意味よくわかんないで、合ってたんだ……」と思ったのを覚えています。

ダダイズムというのは既成概念をぶっ壊して、すべての言語の意味やらリズムやらというものからも一切解き放たれて新しい何か価値を創り出す、というような、シュールの一派のようなもので、結果的にはダダイズムというのもシュールリアリズムに統合されていったようなのですが。

『文豪ストレイドッグス』の文豪にもめでたく選ばれており、おそらく今でも厨二心に刺さる詩人一位でありましょう。

また、中原中也のお顔というのは、黒いコードに黒い帽子をかぶった、櫻井翔さんに見えなくもないイケメン写真でおそらく広く知られていますが、あの顔は実際の中也の印象とはだいぶ異なるようですよ。でも、あの繊細な数々の詩の作者は……やはりあの写真の中原中也が書いたのだというイメージですね。

この顔ですね!ちなみに、この帽子とコートは、中原中也記念館に確か売っていましたよ。

また、彼自身日本最強クラスの詩人ですが、もう一人の最強の詩人として宮沢賢治がおりますが、中原中也も彼の作品を愛していたようです。『春と修羅』がお気に入りだったとか。

いまだに「ゆあーんゆよーんゆやゆよん」でおなじみの『サーカス』とか、『汚れつちまつた悲しみに……』とかを諳んじられます。春の日の夕暮れには、春の日の夕暮れは穏やかだなと思いますし、ちょっと元気ない時は、雨上がりの曇った空の下の鉄橋のような心持になります。

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中原中也の生涯と人となり

中原中也という人は山口県は湯田温泉にて、1907年4月29日に生まれました。お医者のおうちで、長男に生まれた中也さんは大層大事に育てられます。中原中也記念館も中原中也のお墓も、湯田温泉にありますよ。当時は温泉街だったみたいですけど、今は街はそんなに温泉でにぎわってるという感じではありませんでした。もう行ったのは二十年近く前ですが。今はどうなってるんだろう。

8歳の時にかわいがっていた弟を亡くします。この時に、はじめて詩を読み、そこから文学を志すようになったとされています。彼に影響を与えた詩人はアルチュール・ランボーですね。中也は彼の詩を翻訳したりもしています。

有名なところでは、友人である評論家 小林秀雄との恋人の奪い合いでしょうか。女優さんだった長谷川泰子という女性を巡ってのことです。泰子は最終的には小林秀雄の方に行ってしまいます。

どうやら中也はかなりの酒乱だったようですね。また、健康状態もだいぶムチャクチャな人で、確か、小林秀雄の日記か何かを読んだときに、中原中也と最期に会った時のことが描かれていて、彼は煙草の吸い過ぎで手がやにだらけで黄色く、さわったものにまでその色が移るという具合だったそうです。ちなみにその時、彼はひとり「ボーヨーボーヨー」とつぶやいていて、「ボーヨー」ってなんだ?と聞くと、「前途茫洋のことだよ」と言ったそうです。カッコいい。何かわからないが、カッコいい。

中原中也はその後、結婚し、上野孝子という女性と結婚し、文也と愛雅という二人の子に恵まれましたが、どちらも二歳くらいで亡くなっています。遺伝子というのは、もうこの世に存在していないのですね。

愛雅の方は中也が亡くなった一年後に亡くなったのですが、文也の方は中原中也が29歳の頃に亡くなっています。これが彼に与えたダメージは相当大きく、一気に病に臥せってしまうことになります。この時のことを『春日狂想』という詩に残しています。

愛するものが死んだ時には、 自殺しなきゃあなりません。

愛するものが死んだ時には、 それより他に、方法がない。

けれどもそれでも、 業(?)が深くて、

なおもながらうことともなったら、

奉仕の気持に、なることなんです。

奉仕の気持に、なることなんです。

その翌年の1937年10月22日、結核を患い、わずか30年余りでその生涯を閉じています。

私も30歳になったときには、ああ、中原中也ならもう死んでるんだなと思って暮らしていました。

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中原中也 代表作

『山羊の詩』、『在りし日の歌』と二つの詩集を残しています。中でも最も有名であろう彼の代表作は、『汚れつちまつた悲しみに……』でしょう。

『汚れつちまつた悲しみに……』

汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる

汚れつちまつた悲しみに 今日も風さえ吹きすぎる

汚れつちまつた悲しみは たとえば狐の革裘

汚れつちまつた悲しみは 小雪のかかってちぢこまる

汚れつちまつた悲しみは なにのぞむなくねがうなく

汚れつちまつた悲しみは 懈怠のうちに死を夢む

汚れつちまつた悲しみに いたいたしくも怖気おじけづき

汚れつちまつた悲しみに なすところもなく日は暮れる……

いやー。我々なんて存在は、結局はひとつの「汚れつちまつた悲しみ」なんですよねー。

『湖上』もロマンチックで素敵ですね。

『湖上』

ポッカリ月が出ましたら、

舟を浮べて出掛けましょう。

波はヒタヒタ打つでしょう、

風も少しはあるでしょう。

沖に出たらば暗いでしょう、

櫂から滴垂る水の音は

昵懇しいものに聞こえましょう、

――あなたの言葉の杜切れ間を。

月は聴き耳立てるでしょう、

すこしは降りても来るでしょう、

われら接唇する時に

月は頭上にあるでしょう。

あなたはなおも、語るでしょう、

よしないことや拗言や、

洩らさず私は聴くでしょう、

――けれど漕ぐ手はやめないで。

ポッカリ月が出ましたら、

舟を浮べて出掛けましょう、

波はヒタヒタ打つでしょう、

風も少しはあるでしょう。

ロマンチックですね!最高です。

あとは、ダダイストの真骨頂たる『サーカス』でしょうか。

『サーカス』

幾時代かがありまして

茶色い戦争ありました

幾時代かがありまして

冬は疾風吹きました

幾時代かがありまして

今夜此処での一と殷盛り

今夜此処での一と殷盛り

サーカス小屋は高い梁

そこに一つのブランコだ

見えるともないブランコだ

頭倒さに手を垂れて

汚れ木綿(もめん)の屋蓋(やね)のもと

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

それの近くの白い灯が

安値いリボンと息を吐き

観客様はみな鰯

咽喉が鳴ります牡蠣殻と

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

屋外は真ッ闇 闇の闇

夜は劫々と更けまする

落下傘奴のノスタルジアと

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

このサーカスは、最近絵本になったそうですね。確かに絵本向きでとってもかわいいかもしれない。

あとはそうですね、『一つのメルヘン』もいいですし、『月夜の浜辺』もいいです。『帰郷』も素敵ですね。『宿酔』とか、バスケットボールって単語が出てきてテンションが上がります。自分の生きてる世界と同じものを中原中也も見ていたのかと。

何か孤独なんですよね。繊細で、触れてしまえばサラサラと崩れてしまいそうな脆い美しさがあり、それでいて、どこかドスの効いたというか奥底に力強さのようなものも感じるというか。幻想の中を漂っているような心地にさせてくれる天才詩人中原中也の作品をぜひご一読くださいませ。

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