芥川龍之介について

『南京の基督』のあらすじ、解説、感想などなど。

投稿日:2016年5月16日 更新日:

『南京の基督』という小説は、芥川龍之介の初期作品になります。大正九年六月二十二日の作品だそうで、谷崎純一郎の『秦淮の一夜』に影響を受けた作品、と小説末尾に書かれています。(正しくは、谷崎純一郎の『秦淮の夜』だそうです)

芥川龍之介 杜子春・南京の基督

もしかして天野喜孝?と思ったら、本当に天野喜孝だった。角川文庫の企画だったようです。

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南京の基督のあらすじ

南京に暮らす一人の少女が本作の主人公です。名は宋金花、年齢は十五歳。私窩子をやっています。私窩子というのは、まあ要するに売春婦ですね。男と寝ることで生計を立てているのです。

なぜにそのような暮らしをしているかというと、彼女のお父さんはもう仕事ができるような状態でなく、腰も立たないといった様子で売春でもしなければ生きていけないというわけです。

彼女は、基督を進行していました。基督はキリストです。キリスト教徒でして、毎日お祈りを欠かさない、という熱心な信仰者なのです。

そのため、客に時々こんな商売をして地獄に落ちるとは思わないのかと問われるのですが(おまえが言うなよと思いますが)、こうしなければお父さんが生きていけない。こうすることで傷つくのはただ私一人の身だけ。きっと基督様はわかってくれるに違いない、とこういうわけです。

ところが、ある日彼女は梅毒に掛かってしまうのです。さすがに客を取ることはやめて、静養するのですが、どうも一向に良くならない。そんな時、売春婦の姉さんに教えてもらうのです。「移せば治るよ」と。移せば治るのはいいけれど、移った相手はどうなったのと問うと、今はそいつは症状がひどくなって、片目がつぶれてしまったよ、というのです。

金花は自身の身を苦しめることだけならば基督様もわかってくださるだろうと思っていたのですが、今回の梅毒の件では自分が助かるためには誰かを傷つけてしまう他ないわけですね。ここで金花が取った行動は、人に移すことはできないと、やはり誰にも迷惑をかけることはできないと静養を続ける、というものでした。しかし一向に病状はよくならず、日一日と彼女らの暮らしは追い詰められていきます。

そんな時、突然ひとりの外国人がやってきます。今客を取っていないのだという金花の話も聞かず、聞かずというか、彼は中国語を解することができなかったのですね、部屋に居座るわけです。そして彼は、指で4つを示します。4ドルで買うよ、ということですね。金花は言葉が通じないのならばと首を振り続けていたのですが、その指は、やがて5となり、6を示し、ついに10ドルとなります。

彼女はどうにもその男が入ってきたときからどこかで会ったような気がしていたのですが、ついにそうだ、この人は基督様に瓜二つだと思い至るわけです。この人は基督様かもしれない……。そして、梅毒に侵されていた彼女は彼と一夜を過ごしてしまうわけです。

金花は夢を見ます。キリストと過ごす夢を。その夢から覚めると、男はいなくなっていました。10ドルを払うことなく。まだどこかにいないかと金花は慌てるわけですが、そこではたと気づくのです。梅毒の痛みから解放されていることに。

――彼女は後にやってきた日本人の旅行家にその話をするのです。その男はふと、少女を10ドルで買ったが、それを払わずに逃げてきたと自慢していた外国人のことを思い出します。彼はその後重い病を患い発狂してしまいました。おそらくその男のことであろうと思うのです。彼は金花に問います。「あれ以来、病は発症していないのかい?」「ええ一度も」

南京の基督の解説と感想

いろんな読み方ができるとは思います。たとえ男がキリストではなかったとしても彼女の信仰のうちにその男が本当にキリスト化してしまったとも思えますし、あるいはついにはキリストでもなんでもなく、彼女はその後悲劇をたどってしまうのだろうなあとも思えます。

まあ、最後のオチの付け方からして、後者が妥当な気がします。梅毒というのは、当然ながら人に移して治るものではないようですし。当時この小説を読んだ南部修太郎という方がどちらかと前者のように解釈して、最後につまらないオチが変についてると書かれたのですが、これに対して芥川は、君は悲劇を知らずに暮らす人が見る幻を見たことがないのか的なことを手紙に書いて大層怒ったそうです。なので、まあ後者として芥川自身は描いたのでしょう。本当の悲劇を知らず、幻に生きている人を前にして、私たちは何ができるのでしょうね。

わりとシンプルな物語の筋の組み方ながら、短編小説の名手たる芥川の才気を感じられます。何がすごいって、久米正雄の評によると、このとき芥川は中国に行ったことがないそうで、それでありながら南京の空気感をここまで描き切ったというのがすごいです。ぜひご一読あれ。







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執筆者:


  1. […] たまたまこのひとつ前に書いた芥川龍之介の『南京の基督』とちょっと筋立てが似てるというか、人が見る幻を消すことなんてできやしない、というのがまああちらの方は物語の登場人物自身が思うわけですが、こちらは志賀自身が介入して書いたということになりますね。 […]

  2. […] 『煙草と悪魔』は芥川龍之介が1916年 に著した短編小説です。『羅生門』だの『鼻』だのといった作品と同じ時期に書かれた、かなり芥川龍之介最初期の作品になりますね。『南京と基督』などに代表される芥川ジャンル「切支丹物」のひとつです。 […]

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