芥川龍之介について

『青年と死』のあらすじ、解説

投稿日:2019年12月28日 更新日:

芥川龍之介の『青年と死』は、1914年、大正3年に「新思潮」上に発表された戯曲です。芥川龍之介にとっては、ものすごく初期の作品になります。今昔物語巻四「龍樹俗時作隠形薬語第二十四」を元ネタとし、それをメーテルリンクの戯曲からヒントを得て完成させたとされる作品で、本作も戯曲のような台本仕立ての作品となっています。

『青年と死』のあらすじ

それはとある宮中のお話。二人の宦官が、お話しながら舞台に登場します。どうも宮中の妃さんが今月6人も子どもを産むそうなのです。それだけならばおめでたい話なのですが、それどころか身重の身の女性は何十人、しかもどれも父親がわからないのです。

妃たちは外に出ることもできませんから、誰か忍んでやってくる男がいるはずなのですが、兵士もいるし、警備も強化しても、全く減る一方がない。それで妃たちに聞いてみると、どうも男が来ているらしい。しかし、その方は見えず、声だけが聞こえるということなのです。

その予防線を張らねばということで、まさか空を飛んで来るわけでもあるまい、足跡は残るだろうと、そこいらじゅうに砂を撒くことにしました。……

舞台は変わり、AとB、二人の青年が現れます。彼らは一年前まで唯一実在だの最高善だの生だの死だのをまじめに考えておりましたが、ここ最近はすっかり忘れておりました。今夜も二人は宮中へと繰り出すのです。姿を消せるマントを羽織って。

宮中の妃様方は今夜もうわさしておりました。今夜もあの方々は現れないのかと。姿かたちは見えないが、声はする。手触りだってもちろんする。見えない男たちと彼女らは夜な夜な乱痴気騒ぎを繰り広げていたわけですね。

ところがその晩は砂があった。ついに見えない男たちの足あとが写り、どこにいるかわかるようになったのです。槍を持った護衛の者が大量に部屋に押しかけます。そうしてまた舞台は暗転し……。

現れたのは、一人の男。それは「死」でした。「死」が人の前に現れる理由はただ一つ。人が死ぬ時です。

Aの方は、お前を待っていた、さあ殺してくれ、と言います。ところがBの方はまだ死にたくないと言います。ところが「死」はあらゆる嘆願を聞き入れることはありません。「死」は言います。お前は俺のことを忘れていただろう。死を避けようとしたお前にこそ死は訪れる。そして、Bはばたりと倒れました。

しかし、「死」はAを殺しはしませんでした。お前の行為を認めたわけではない。お前が俺を忘れなかったからだ。お前の誤りがわかったか。この先、生きられるかはお前の努力次第だ……。

舞台は現実に戻り、兵士に引きずられていくBの死体がありました。

『青年と死』の解説

本作の末に「龍樹菩薩に関する俗伝より」と記載されております通り、龍樹さんのお話なんですね。この龍樹さんは誰なのかというと、大乗仏典を体系化した人です。まあ、偉いお坊さんなんですね。

この短編小説のとおり、めちゃくちゃ秀才だった彼とそして三人の仲間は学問を突き詰め突き詰め、学問で得られる誉はすべて得たので、もうここからは快楽に生きようと決め、姿を消す術を学んで、お姫様がいるところに忍び込み、ヤリまくる、ということをしていました。

それで、3人の仲間は砂の罠で捕まって殺されるのですが、龍樹一人は生き残りました。その時初めて、欲望が不幸の原因であることに思い至り、彼は出家することになるのです。

古典をベースにした芥川龍之介のはじまり

皆さんきっとご存知の通り、芥川龍之介は『』だの『芋粥』だの、古典をベースにした傑作小説を多数著しています。そこには古典に題材をとりながらも少し視点をずらして、古典では描かれていなかった人の苦悩とかがあるのですが、まだそこまでは至っていない感じですね。

戯曲形式を使った初の作品

芥川戯曲のように書いた作品は、他にも『三つの宝』とかがありますね。この辺の作風に過去のデータベースを紐解き、新しい作品を生み出そうとする芥川らしさが垣間見られます。

早くから「死」を扱った芥川龍之介

「死」を擬人化し、テーマに持ってきている点もまた、『青年と死』で特筆すべき点です。元ネタでは悟りを開くための戒めであった、なぜか自分だけ生き残った、という点を「死」を登場させることでこの物語から生と死の関係性を描き出そうとしています。

「死」を想うことで、はじめて生が現れる。決して死を忘れるな――。という作品を初期に書いた芥川龍之介が、死へと傾倒し、死を想い続けて遂に自殺してしまうというのは、晩年の芥川龍之介を予期させるようでもあり、あまりに皮肉なことでもあるように思えます。

『青年と死』は青空文庫とかにもありますが、書籍でとなると全集とかでしか読めないと思います。ぜひご一読くださいませ。







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