芥川龍之介について

『白』のあらすじ、感想、解説などなど。

投稿日:2019年12月2日 更新日:

芥川龍之介の『白』という小説をご紹介します。白、というのは白い犬のことです。白ちゃんですね。この白が主人公のお話です。ものすごい簡単に言いますと、白という犬が、黒になったりして、いろいろあって黒になり、再び白に戻るという6章から成る短いお話です。素敵なお話です。

1923年の婦人雑誌『女性改造』が初出となるようで、芥川龍之介は1927年、35歳で亡くなっていますから、割と晩年の作品ですね。では少しご紹介してみたいと思います。

芥川龍之介『白』のあらすじ

白という犬がおります。飼い犬です。真っ白な毛の犬のシロちゃんです。そんな白は、ある日、犬殺しに遭遇します。しかもその犬殺しは顔なじみのお隣の黒という犬を狙っていました。黒、危ない!と叫ぼうとはしましたが、じろりと犬殺しが白の方を見るのです。お前を先に殺してやろうかというまなざしで。白は怖くなって、逃げ出します。友を置いて、全力で。

友を置いて逃げ出した白は黒になる

そうして必死で駆けて、自分の主人のお家へたどり着きます。そこには治夫さんという名の坊ちゃんとお嬢さんがいました。えらいことになったと白はわんわん吠えるのですが、どうも様子が変です。坊ちゃんもお嬢さんも、この犬はどこの犬だというのです。この真っ黒い犬は何じゃと。そう、白は何故だかわかりませんが、体が真っ黒になっていたのです。よその犬が入り込んできたと思った坊ちゃんはバットで殴って追い返します。たまらず白は自分の主人の家からも逃げ出しました。

行き場をなくした白は東京中をとぼとぼ歩きました。追い出されて悲しかったけれど、頭から離れないのは、やはり体のこと。鏡が、水たまりが、恐ろしくってたまりませんでした。自分の姿を見ないように、公園でぼんやり過ごしてました。うららかな穏やかな公園で過ごしていると、やっぱり自分は白だったんじゃないかなと思えて来ました。

臆病さに立ち向かい、戦い始める黒になった白

その時、犬の声が聞こえてまいりました。キャンキャンいじめられている声がするのです。その声を聞くと身震いがしました。黒を捨ててきた瞬間のことを思いだしたのです。臆病になるな、臆病になるな!と白は自分を奮い立たせ、その声の元へと向かいます。そこでは小さい子犬が子供たちにいじめられておりました。彼は思いっきり唸り声を立てて飛び込み、勇敢に助けたのです。

ナポレオンなる子犬ちゃんを白はお家まで送っていってあげます。ナポレオンは御礼がしたいと、どうぞ私の家にお泊りくださいというのです。しかし、礼など要らねえよと白は断ります。「せめてお名前だけでも」というナポレオンに、「白という名だ」と告げます。白とは変な名前ですね、お体は真っ黒なのに、と言われた白は、じゃあなと東京の街に姿を消しました。

それから、東京の街にて「義犬」のニュースが踊るようになります。線路に子供が誤まって入り込んでしまって、あやうく電車に轢かれるところを電光石火で救い出した黒い犬。山中で行方不明になった一団を無事下山へと導いた黒い犬。炎に包まれた家の中から赤ん坊をくわえて出てきた黒い犬。動物園から逃げ出して二名を負傷させたオオカミと決闘し、組み伏せた黒い犬……。それらはまさしく白なのでした。

疲れ果てた白の最後の願いは、主人にもう一度会うこと

白は心身ともに疲れ切っていました。おそらく、自分がこのような黒い体になったのは、隣の黒を見殺しにした罰なのだろうと。だから、臆病になるのはもう行けないと戦い続けてきた。しかし、それにもやがて疲れた。死のうと思い、無茶もした。列車に飛び込み、雪山に行き、火事場へ突っ込み、狼と戦ったが、それでもなぜか死ねない。

そうして、彼は自殺しようと決意しました。その最期に願ったのは、主人の元に再び戻ることでした。坊ちゃんとお嬢さんの顔だけ見たいと。もう一度どこかの野良犬が迷い込んだと勘違いして、主人にバットで殴られてそれで死んでしまっても本望だと。そうして、主人の庭先に入り込んで、犬小屋の前まで行き、そこで疲れ果て、倒れたように眠りました。

人を救った白は、白に戻る

目を覚まし、眼前にいたのは、お坊ちゃんとお嬢さんでした。坊ちゃんは言います、「ねえ、お父さん、お母さん、白が帰ってきたよ!」と。白をのぞき込むお嬢さんのまなざしに映る自分の姿は、確かに真っ白な犬なのでした。

芥川龍之介『白』の感想、解説

すがすがしいほどの勧善懲悪物ですね。児童小説と呼んでも良いような、わかりやすいお話です。友人を見捨てて逃げてはいけない。見捨てて逃げると、罰が下る。その罪を悔い改めるには、その見捨てた臆病さに打ち勝ち、たくさんの人を救わなければならない。

怖く見えるものも飛び込んでみれば大したことじゃない。だから、怖がってはいけない。

しかし、そうは言うけども冒頭の犬殺しなる男に黒が襲われている時に、立ち向かってたら、白は死んでたよね? という悪い突っ込みを入れたくもなります。ところが、白は黒になったあとに死のうと思って火事場に飛び込んでも不思議と死ななかった、と書かれています。

これは、ただ単純に何か神々しい力に守られていたのかもしれませんし……、そんなの死んじゃう、こわい、と思えることって、思い切って死のうと思ってやってみたら案外全然死なないんだよ、みたいなことが込められているように思いました。今ならブラック企業と言われそうですが。ともかく、白はその段階で臆病さに打ち勝っていたわけですね。

芥川龍之介らしからぬ(?)、割とシンプルでうがったところのない短編小説です。ぜひ読んでみてくださいね。







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  1. […] 『白』とか『魔術』とか『三つの宝』みたいな、児童向けの一作ですね。ちなみに『赤い鳥』では、『蜘蛛の糸』『魔術』『杜子春』などを発表しており、本作『アグニの神』が芥川最後の『赤い鳥』での発表作だそうです。 […]

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