純文学

『春琴抄』、あらすじ、感想、実話なのか?などなど。

投稿日:2016年6月1日 更新日:

春琴抄
『春琴抄』は文豪谷崎純一郎の代表作です。昭和八年、谷崎潤一郎四十八歳の時の作品です。そのあらすじや感想などを書いてみました。今なら、青空文庫でも読めるんですね。昭和二十六年初版の新潮文庫のデザインがカッコいいのです。

それはともかく、谷崎ですから官能的な趣きもある小説なんですが、もうその辺を飛び越えて、これはもう、とんでもないドSとドMの物語ですね。純愛を通り越して狂気的な愛です。谷崎潤一郎、ここに極まれり……といったところでしょうか。

ちなみに、春琴抄というタイトルに関しまして、これは何かというと、春琴さんに関する書物、という意味になります。春琴さんというのは人名です。三味線弾きの女性なんですが、これがもうとんでもない女性で。

春琴さんはもう亡くなられておりまして、生まれは大阪道修町です。出てくる言葉も大阪弁です。舞台は北浜、肥後橋、本町、堺筋本町、まあその辺ですね。

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春琴抄のネタバレ込みのあらすじ

『春琴抄』は、春琴、本名は鵙屋琴という盲目の三味線弾きと、そのお付きの男、佐助の物語です。佐助と春琴は年が4つ離れておりまして、佐助の方が年上です。佐助は春琴の丁稚をしている男で、それはそれは涙ぐましいほど献身的に春琴に仕える男です。

美しきサディスト 春琴

春琴という女性は、恐るべき美貌の持ち主であり、そしてそれはそれは恐ろしいほどわがままな女で、三味線の天賦の才に恵まれつつも盲目ということだからか、それはそれはプライドが高く、まあ気の強い女性なのです。

小さいころから大事に、というかまあどう扱えばよいものやらという感じで育てられてきましたので、年々その気の強さは強くなる一方だったのですが、三味線を弾かせれば天下一品、そう右に出るものはないという女性なのでした。

献身的なマゾヒスト 佐助

佐助はそんな彼女に仕える男でして、手を引く役をし、体を洗ってやり、トイレに連れていき、飯を食わせ、けいこの折はじっと聞いていると。そんな男でした。

ある晩などは春琴が足が冷えるということで、佐助は自分の胸に足を押し当てて温めてやるのですが、その時はどうにも歯痛が収まらず、これはちょうどいいと言わんばかりにその腫れた熱のこもった頬に足の裏をひたと当ててやったわけです。まあ一石二鳥です。

が、春琴はそれにすぐ気づき、その顔を蹴り上げ、自分の歯痛の頬で私の足を温めるとはどれだけ浅ましいかとブチ切れるわけです。ひどい。

師弟関係を結ぶマゾとサド

しかしながら佐助はそんな彼女に尊敬の念を抱いておりまして、丁稚ながら自分でも三味線を弾いてみようということで夜な夜な練習するような男でした。目をつむり、春琴のように暗闇の見えない世界の中で延々音を探し求めて弾くわけです。

ところがある日、どこからか三味線の音が夜な夜な聞こえるということでついに佐助は三味線を弾いていることが春琴にばれてしまうのです。

おまえ、私の前で弾いて見せよといわれ、これはもう腹を括るしかないと弾いたところ、春琴は佐助、おまえを弟子にしてやろう、とこういうわけです。

三つ年上、しかも丁稚の男、まだその時春琴は十を少し過ぎたところだし、春琴自体が弟子っ子だし、師匠なんてどうなのか、となったわけですが、佐助も春琴もあれでうまいこといってるようだし、盲目の天才少女をどうしようかと家族みな困っていたところに、まあちょうど上手いこと行くのではないかということで師匠の真似事のようなことをさせることになったのです。

佐助と春琴の師弟関係がそこから始まっていくわけです。

身ごもった春琴、その父親は?

それはそれは厳しい修行なのですが、佐助はこれで人目を気にすることもなくなったし、春琴に教えてもらえるしと喜んで三味線を弾くようになります。

やがて、春琴は妊娠します。皆が佐助の子ではないかと疑うわけですが、佐助は違うと言いますし、春琴は佐助などに興味ないし、父親のことは言いたくない、と言います。

まあ佐助の方はわりとキョドっていたわけですが、春琴の方は、佐助、おまえいい加減なことを言うたやろと追い詰めるような口調です。

子は余所にやられるが、二人の奇妙な愛は深まり続ける

まあ生まれりゃ子もかわいく思うだろうし、やがては春琴も折れるだろうと家族は思ったわけですが、折れない。その子を産んだ後、かわいくもなんともない、という風情で、ついにその子は他所へとやられることになり、再び三味線の修行へと春琴と佐助は戻りました。

そして、ついに春琴は独立することになります。正式に三味線の師匠となるわけですね。そこへも当然佐助はついていきます。

まあ、美しい美貌の三味線の先生で言うこときついし手は出るしということで、泣きながら弟子を辞める人もいれば、それがたまらんと弟子になろうとする下心満載の男も来るわけです。それでも佐助は黙々と彼女に仕え、春琴はなんだかんだ全幅の信頼を佐助に寄せている。プラトニックなのか何なのか、二人だけのへんちくりんな愛の世界が出来上がっていくわけです。

ところが、ある日春琴のもとに大きな事件が起こります。夜に賊が忍び込み、彼女の顔面に熱湯をぶっかけてしまったのです。その犯人は、春琴が怒った際に顔に傷をつけられたおなごの父親の復讐か、それとも春琴に歯牙にもかけられなかった男の恨みか、それはついにわかってはいません。とにもかくにも、彼女の美しい顔はやけどでエライことになってしまったわけです。

非常に乱暴な物言いをすれば、まあ盲人なのでどの程度エライことなのか、エライことになったところでどうせ見えてないじゃないかというところなのではありますが、春琴は言うわけです。佐助、お前には私のひどい顔を見てほしくないと。

佐助は、決して見ません、というわけです。しかし、まあ、毎日お付きをするわけですから、いつかは見てしまうわけです。しばらくは包帯ぐるぐる巻きの生活が続きましたから、その外す折さえ席を外せばよかったのですが、ついに包帯を取る日はきてしまうわけです。

佐助がここでとった行動は、自分の目に針をさし、自らの意志で失明することでした。

佐助は両目の視力を失い、春琴に言います。私もお師匠様と同じく盲目となりました。もう貴方のお顔を見ることはありません。佐助は思います。これがお師匠様のいる世界なのだ。これでお師匠様と同じ世界にこれたのだ、と。

ついに二人は、結婚することなく一生を終えました。ですが、春琴は最初の妊娠とは別に、二人の男の子と一人の女の子を出産しました。

春琴が亡くなったのち、佐助は二十一年を一人で過ごしました。子と会うこともありませんでした。暗闇の世界に浮かぶ春琴の姿は、年々磨きがかかって美しくなっていたのではないでしょうか。

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春琴抄の感想

文章はそれはそれは美しく、そして読みにくいです。受け丸がないので、文章が続きまくっているのですね。要するにこういう感じですええそうですつまりこういう文章がずっと続きますだからとても読みにくいのですがリズムが結構ありまして慣れてくるとするすると入ってきます樋口一葉もそういえばこんな感じの一文が異常に長い文章でした。

しかし、人は人をここまで愛せるのでしょうか。いや、この愛は恐ろしい……。

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春琴抄は実話なのか?

春琴抄の割と冒頭部分にこの書き手、語り手自身がどこで春琴を知ったのかが書かれています。引用してみましょう。

近頃近頃私の手に入れたものに「鵙屋春琴伝」という小冊子がありこれが私の春琴女を知るに至った端緒であるがこの書は生漉きの和紙へ四号活字で印刷した三十枚ほどのもので察するところ春琴女の三回忌に弟子の検校が誰かに頼んで師の伝記を編ませ配り物にでもしたのであろう。

こんな一文がありますので、さも実話のように思われる『春琴抄』でありますが、これは谷崎潤一郎の創作です。ですが、モデルがおりまして、菊原初子という女性だとされています。







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  1. […] そして、「抄」は「抄く」ということで、抄いたもの、すなわち紙、書物、本のことです。『春琴抄』の「抄」ですね。よって、『枯野抄』とは、「旅に病むで夢は枯野をかけめぐる」という句を詠んでから実際に51歳の芭蕉がなくなるまでの物語で、その芭蕉の周りで末期の水を取っていくその弟子たちの心の中で起こる様々な事象を書き著した小説なのです。 […]

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