芥川龍之介について

『トロツコ』のあらすじや考察。

投稿日:2018年8月8日 更新日:

『トロツコ』の作者は、芥川龍之介です。『トロッコ』でなくて、『トロツコ』なんですね。芥川龍之介においては、中期に位置する作品で、1922年に発表されました。青年が少年時代の過去の記憶に基づいて書いた小説、という体裁です。

確か中学生の頃かに、芥川が誰かに聞いた、トロッコ乗った帰り道が心細くてたまらなかったみたいな話を膨らませて書いた作品と教えられた記憶があるのですが、論拠が見当たりませんでした……。記憶違いかな……?

王朝物で人間心理の裏を描いた初期作と、神経衰弱状態にあった中書かれた後期作品とをつなぐ一作となっています。

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芥川龍之介『トロツコ』のあらすじ

主人公は良平という八歳の少年。舞台は小田原熱海間の鉄道工事現場です。

土を運搬する道具としてトロッコが使われており、遠くから土を積んで工事現場のおじさんが乗ってやって来る。終点まで来るとひらりと飛び降りて、土をぶちまける。トロッコをまた線路において、今度は斜面を登っていく。

子どもにはトロツコというのはたまらなく面白そうで、乗りたいどころか、押したい、いやちょっとでもいいから触りたい。そんな感じでした。

ある日どうにも堪え切れなくなり、弟と弟の友達と三人で誰もいないうちにトロッコを押しまして、坂の上のところで飛び乗りました。疾走するトロッコ、猛烈な勢いで左右に流れていく景色。これは……楽しい……!

線路の終わりまで来て、さあもう一回と思ったのですが、土方のおじさんに怒られて、良平一派はピューっと逃げたのでした。

それ以来、トロッコに触るのはとっても怖い。しかし、とってもやっぱり乗りたい。

そんな良平にチャンスが巡って来ました。その日は何とも優しそうなお兄さん二人が、トロッコ担当なのでした。このお兄さんたちならきっと怒られないのでは……?

良平は、押してもいい?と聞いてみました。するとお兄さん方はもちろんさ、手伝ってくれと好反応。良平はお兄さんと一緒にトロッコを押します。

いくらでも押してていい?と聞くと、構わんよと。良平は嬉しくてたまりません。坂の上までたどり着くと、今度はトロッコにみんなで飛び乗って滑っていく。それを何度も繰り返す。

楽しくてたまらないのですが、良平はふと思います。気づけばとんでもなく遠くへ来ているのでした。工事現場のお兄さんたちは茶屋に入って休憩なんぞしており、良平にお菓子をくれましたが、どうにも良平は気が気でない。

休憩を終え、さらに線路の奥へと進みます。もう帰れるかと思っても、まだ帰れない。

再びお兄さん方が茶屋に入ったところで、お兄さん方は言います。俺らはもっと山奥で泊まりなんだ。坊やはそろそろ帰りなと。

いよいよ日は落ち、どこだか全く知らない山の中。良平はたった一人ぼっちになりました。泣きそうになったが、泣いている場合ではない。工事夫に礼を言い、引き返して来た線路を駆け抜けていく。

もらった菓子が煩わしい。履いてる草履が煩わしい。投げ捨て、脱ぎ捨て、どんどん暗くなりゆく山道を行きます。

いよいよ道は夕闇に包まれ、良平はもう、命さえ助かれば、と思いながら無我夢中で走ります。

ついにトロッコの線路のところまでたどり着いた時、良平は泣き出しそうになりましたが、必死で我慢します。そうして村に入って自分の家までたどり着き、玄関に飛び込んだところで堰を切ったように声を上げて泣き出したのでした。

良平は二十六歳になった今、その時のことを思い出すことがあります。あの、暗く先の見えない断続する一筋の道を。

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芥川龍之介『トロツコ』考察

『トロツコ』という作品で作者芥川龍之介が伝えたかったこと、主題は何なのか?『芋粥』や『』などで芥川龍之介が描いたことと同様、自分の中のあこがれ、希望がかなった時、手にした時、それが自分をどこへ連れて行くか?ということを描いたのではないかと私は思います。

人は希望に向かって一途ではありますが、その先に何があるかは多くの場合、見えていません。そこにたどり着いた後、心細い道程が連綿と連なっている、かもしれない。希望の向こう側にある人生の恐ろしさというか、虚しさというか、憧憬によって人生というのが支えられている、みたいな寂しさを感じますね。

あと、最後の一段落があるかないかで、この作品の見え方が大きく変わりますね。

良平は二十六の年、妻子と一しよに東京へ出て来た。今では或雑誌社の二階に、校正の朱筆を握つてゐる。が、彼はどうかすると、全然何の理由もないのに、その時の彼を思ひ出す事がある。全然何の理由もないのに?——塵労に疲れた彼の前には今でもやはりその時のやうに、薄暗い藪や坂のある路が、細々と一すぢ断続してゐる。……

これがなければ、ただの幼少期の一体験の描写で終わっていた作品かも知れませんが、頼りなく、心細い、『トロツコ』のような旅路を日々を生きながら私たちも歩いている、というわけですね。芥川龍之介自身、もしかしたら、初期の作品がそれなりに評価を受けてしまったことで、彼自身が描いた「希望の向こう側」に本当にたどり着いてしまったのかもしれませんね。そして、この『トロツコ』の道が、「ぼんやりとした不安」につながっていったのでしょう。

中学校の教科書なんかでよく取り上げられる一作かと思いますが、大人になって読むと、また違って見えてきますので、面白いですよ。







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