宮沢賢治

『やまなし』のあらすじ。クラムボン、イサドとは何か。

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『やまなし』は宮沢賢治が遺した短編童話です。1923年、大正12年4月8日付の岩手毎日新聞紙上にて掲載されました。

小さな谷川の底を舞台にした、二匹の兄弟蟹の物語で、五月と十二月の二つの物語から成る童話となっています。やまなしというのは山梨県のことではなく、山の梨のことです。また、細かいですが、蟹はたぶんサワガニでしょうね。

『やまなし』のあらすじ

ものすごく短い小説ですので、あらすじというあらすじもあまりないのですが、まとめますと、これはとある谷川の底のお話で、五月には、兄弟の蟹がクラムボンが笑ったり死んだりする話をしているうちにカワセミが頭上の魚を獲って怖かったと。

十二月には兄弟二人でより大きな泡を吐こうと遊んでいる間にお父さんが寝ないでそんな遊んでたらイサドに連れていかないよ、何て言ってるうちに、山梨が流れてきて、お父さんと見に行ったところ、これはそのうち美味しいお酒になるよ、なんて話をしましたよ、というお話です。

クラムボンとは何か

さて、五月にクラムボンというものの話を蟹の兄弟はするのですが、このクラムボン、何のことだかまったくわかりませんね。しかし、このクラムボン、実はついに今なお、わからないままなのです。

クラムボンにちょっと注目してみると、五月に、かぷかぷ笑い跳ねる生き物で、殺されたものなのです。そして、クラムボンがなぜ笑っているか、なぜ殺されたか、お兄さん蟹にもわからないのです。ちなみに、かぷかぷ笑うも宮沢賢治独特の擬音で一層謎を深めております。

ではクラムボンは何なのか?論については諸説あるようで、アメンボだの水泡だのプランクトンだのCrab Bone(クラブボーン)だの光だの鎹だの母蟹だの人だのバンド名だの何だの言われておりますが、ついぞ何かわからない。それがクラムボン、なのです。

しかしまあせっかくなので、私がどう思ったかを書いてみます。私は改めて読んでみて、Crab Bone(クラブボーン)から母蟹説を推そうと思います。本作、母蟹出てきませんしね。

『クラムボンはわらったよ。』と言っていますが、『クラムボンはわらっていたよ。』とも書かれていますから、今クラムボンがいるのではなく、クラムボンは過去にいたのではないかと思います。つまり、二人の兄弟蟹はクラムボンがいた頃の過去を回顧しているのだと考えられます。

そして、クラムボンは殺されてしまった。母がいつも笑っていたことも、殺されてしまったことも、なぜだかわからない、というのが説明がつきそうな気がします。子を見て母は理由もなくいつでも笑みを浮かべるでしょう。(それは何となくかぷかぷという擬音で表現できそうです。お母さんはかぷかぷ笑っているように思えませんか?)そして、カワセミに捕らえられた魚のように、自然界では突如として命を奪われるものでしょう。

クラムボン=母蟹と考えると、蟹の兄弟たちがカワセミを恐ろしがるのもよくわかりますし、五月にクラムボンの話ばかりしていた兄弟たちが十二月にはしなくなるのも、子供の成長の逞しさを感じ取れるような気がして、ちょっと切なくなれます。なんてことない生き物より、物語の深みが増しませんか?

イサドとは何か

本作『やまなし』には、もう一つ見慣れない言葉が出てきます。お父さんがそんな夜まで起きてたらイサドに連れて行かないぞ! と子どもたちを叱るシーンがありますが、しかしこのイサドってどこのことなのか?

これもまた今なお、どこのことかわかっていないんですね。ヤバい。クラムボンもイサドも何のことかわからないとかヤバい。イーハトーヴォ、マジヤバい。

しかしながら何となく、田舎の里、のようなイメージではありますね。クラムボンがお母さんだとするならば、お母さんの実家でしょうかね。お墓参りかもしれませんね。いや、お墓参りだとイサドに連れて行かないのはお父さんひどすぎる……。まあきっとイサドとは、兄弟たちにとって楽しいところなのでしょう……。

『やまなし』のまとめ

クラムボンやイサドが何かまあ読者それぞれの解釈があるとして、五月には蟹の兄弟たちはかわせみに捕まった魚を目にし、頭上を山梨の花(作中では樺の花)が流れていきます。これは命の死を意味していますね。

そして、十二月にはその山梨の実が落ちてきて、蟹一家を生かします。これは生を意味しています。五月と十二月、一年の中で繰り返される生と死――食物連鎖、と言ってもいいかもしれませんが――そうした自然の残酷さを前に、幼い兄弟たちが成長していく様が描かれている一作なのですね。

また、本作は

小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈(げんとう)です。

『やまなし』宮沢賢治

から始まり、

私の幻燈はこれでおしまいであります。

『やまなし』宮沢賢治

で終わります。『オツベルと象』も第三者が物語を語る形式をとっていましたが、本作ではこの第三者の語りにより、青い幻想のような谷川の底の風景が浮かんできますね。ぜひご一読ください。







-宮沢賢治

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